21 共に永遠に
あの光の場に呼ばれてはいない者にはマユリアの言っている言葉の意味はよく分からない。なぜシャンタルとマユリアが二人で一人であったのかが。
そして八年前のことを知らぬ者もやはりマユリアの言っている言葉の意味が分からない。なぜマユリアが全てを見せて共に同じことを見て同じことを聞いていたと言うのかが。
「そういえば八年前、目を覚ました後でそう思ったことがあったなあ。元に戻りたい、マユリアとラーラ様と一緒に物を見たり聞いたりしたいって言って、ミーヤとキリエを困らせたっけ。だけど、今はもういいかな」
シャンタルはさらりと勧められたおかわりを断るような軽い感じで断った。
「それから一応念の為に聞くけど、一緒になるって一体どういうことを言うの?」
シャンタルの問いにマユリアは小さく声を含ませながら笑った。
「以前と同じことです。わたくしと一つになり、わたくしの中にいらしてくださって、共に何かを見たり聞いたりしてくださればそれだけで」
「それなんだけど」
もう一度シャンタルがマユリアの言葉を止めた。
「前はあんな感じだったけど、それはそれで結構よかったんだよ。だけどこうして目が覚めてしまったから、今はもう前みたいになるのは無理だと思う。おいしい物も食べたいし、トーヤとベルとアランと一緒にいるのが楽しいしね。そういうことができて、その上で一緒になれる方法でもあるの?」
「そうですね、それは少し無理かも知れません」
「やっぱりそうか。じゃあ申し訳ないけど一緒にはなれない、これから先は別の人間として違う道を生きていくしかないよ」
シャンタルがきっぱりとマユリアの申し出を拒絶した。
「私は今の自分がいい。それは苦労することも多いと思うけど、自分の目で見て自分の耳で聞いて、そして自分の口で自分が考えていることを話す。つまらない冗談を言い合って、時には叱られたり怒鳴られたりすることもあるけど、それだって大切なことだし、何より仲間と離れたくないからね」
「シャンタル……」
ベルがシャンタルの言葉に涙を浮かべる。アランも黙ったままシャンタルを見つめ、ベルの肩に両手を置いた。
ミーヤとアーダは硬い表情で口を一文字に引き結んでじっと二人のやり取りを見ているだけだ。
キリエとフウは一見するとそれぞれいつもと同じ表情を崩さずにいるが、その心の内までは分からない。
セルマは床の上に座り込んだままもう混乱を隠そうともしていない。
そしてルギは、まるで石像であるかのように、またはその腰に帯びている剣であるかのように、心のある人ではなく物であることを選んだように動かずにいる。
「だから諦めてもらっていいかな? それに私があなたの思い通りになると、その先にはとんでもない未来しか見えないんだ。そうさせないためにも私はうんとは言えない」
マユリアはシャンタルの言葉を黙って聞いていたが、ゆっくりと美しい顔を哀しみの形に変えた。
「かわいそうなシャンタル」
悼む言葉が愛を囁くように流れ出た。
「素直に共に参るとおっしゃってください。そうでなくば大変おつらいことになるのですよ」
「ごめんね、なんて言われても無理なものは無理だから」
シャンタルは気の毒そうに同じ言葉を答えるのみ。
「どうしても受け入れてもらえませんか?」
「ごめんね、だけど嫌なものは嫌だから。それでも一応聞いておくよ、もしも私がいいって言ったら、私は一体どうなることになってた?」
「さきほども申し上げました通り、わたくしと一つになっていただくことに」
「うん、それは分かった。でもその場合の一つってどの部分? この体はどうなる予定だった?」
シャンタルの質問はあくまで深刻さを欠いているとしか思えない。まるで子どもがどうすればお月さまを触れるのかと聞いているかのような調子だ。
「一つになっていただくのは魂です」
「それっておかしくない? だって一緒だったのは体だよね」
「そうですね」
「だったら体が一つになるのが本当じゃないの?」
「それは肉体に対する概念が違うからとしか申しようがないのですが、困りましたね」
マユリアは幼い子どもの質問に答えかねている母親のように、少し困ったような、それでいて楽しいような顔になる。
「今のままではそのお美しい姿もいつかは人としての生を終え、土に戻り塵となって消え失せてしまいます。人となると肉体はそのように変遷するものです」
「それはあなたも一緒だよね」
「ええ、このままでは」
マユリアは我が意を得たりとばかりに満面の笑みを浮かべた。
「そのためにも一つになりたいと申し上げているのです。わたくしたちが一つになれば完全な存在になります。そうすればこの肉体も永遠に美しさを保ったままこの世に存在し続けられる」
マユリアは優しく微笑みながら続ける。
「もう一度だけお願い申し上げます、わたくしと一つになっていただけないでしょうか。共に永遠にこの人の世で人を見守り続けたいのです、決して自分のためではなくこの世のためなのです。どうかわたくしの願いをお聞き届けください」
「ごめんね、それは無理」
シャンタルはマユリアの頼みを再度即答で拒否した。




