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14 侍女頭の判断

 当代には奥宮から来た侍女三名と交代してシャンタル付きのネイが付くことになった。シャンタルのいるところには必ずシャンタル付きの侍女以上の者がいること、それは必ず守らねばならない決まりである。

 ラーラ様は立場上シャンタル付き侍女ということになってはいるが、それはほぼ名目上のこと、実際にはもう一人のお守りする方、もう一人のマユリアとして扱われている。謁見の付き添いなど一部にお役目を果たされていることもあるが、このような時にシャンタル付き侍女としての役割りを果たせる方ではない。今のように特別な時期にシャンタルのそば付きを務められるのはネイとタリア、そしてキリエの三名だけと言っていいだろう。


「私はミーヤたちと共に神殿に参ります。それが侍女頭としての使命ですから」


 これでこの部屋の中の大部分の者は秘密を知っている者ばかりだ。そのためもあって奥宮からの侍女三名を返した上でネイを呼んだのだ。この部屋に残っても何もないと思うが念のために遠ざけた。キリエはそう考えながら秘密を知らぬ者たちの様子を見る。


 フウはエリス様の正体が先代「黒のシャンタル」だということを知っているが、その他の秘密については知らない。だがフウにとってはそのようなことは何も関係はないだろう。キリエはフウを信じている、フウはこのままで大丈夫だ。


 アーダは実は光の元に呼ばれた一人ではあるが、そのことを知らないキリエはアーダは何も知らないと思っている。だがこの部屋の担当なので外すのは不自然だろうと残すことにした。アーダはこの状況に戸惑ってはいるが、それ以上の不審な様子はない、行動を共にしても問題はなかろうとキリエは判断した。


 問題はセルマだ。セルマは神官長からこの国の大きな秘密聞き、次代様以降はもう新しいシャンタル候補は生まれないということを知っている。

 エリス様と侍女については宮から逃亡したと聞いているのにどうしてこの場にいるのかを(いぶか)しんではいるだろうものの、神殿詣での時に時々話をしていたらしいから関わりはある。エリス様の正体を知っているわけではないし、今は神官長から連絡が来ることもなく、それ以上のことを知る機会もなかっただろう。神官長はエリス様が先代であろうと推測はしているが、おそらくセルマには伝えていないはずだ。


 キリエは果たしてセルマも一緒に神殿に行ってもいいものなのかを悩むが、ここで一人だけ帰れと言うわけにもいかない。そんなことをしたらそれこそ不自然だ。逆に勘ぐられて今以上に自分に敵対心を抱かせることになり、セルマが神官長の元に帰ってしまうかも知れない。普通にしておかねば。そのためにも自分も共に神殿に行き、見張っておく必要があるとキリエは考えた。


 それにルギとアランのことも気にかかる。もしかするとこの二人の間に何か起こる可能性が出てきた。ルギはおそらくトーヤ以外を相手にする気はなかろうが、アランの方はどうなのだろう。これまで対応してきた中で、この少年はほとんど本音を顔に出すということがなかった。いつも冷静に淡々と話をしている。

 話に聞いたこれまでの経歴から、何事も冷静に受け止め対処するようになったようだが、なんといってもその実はまだまだ子どもの部分も多そうだ。そのあたりは一見すると感情的だが実はそうではないトーヤともしかしたら逆なのかも知れない。その冷静な様子とは違い、思ったより中身は感情的なのではないかとキリエは推測をしている。


 キリエはトーヤが今どこにいるのだろうと考えた。最後に植物園にいただろうところまでは分かっている。フウにはあえて確かめなかったが、それはほぼ間違いない。あの時、フウは無理矢理のように植物園に戻っていた。ごく自然に振る舞ってはいたが、あれはトーヤに逃げるようにと(うなが)しに行ったのだろう。


 キリエはフウの動きに感心し、トーヤを逃がしてくれていてよかったと思っている。今のキリエはトーヤたちに敵対すると表明している。それは神殿に行っても変わりはしない。マユリアのご意思に反する者は排除する、それが侍女頭の使命だ。その自分を出し抜くこともできなくて、何が時期侍女頭候補であろうか。


 それはトーヤたちにも思うことだ。この宮に仕えて五十年以上、人生の大部分を神のためにだけ生きてきたのだ。今からその生き方を変えることはできない、この国のあり方を変えることも。それほどの大きな変化のためには大きな力が必要となる。もしもトーヤたちがそれほどの力を出してこの国の形を、運命を変えるというのなら、自分は喜んでそのための(にえ)となろう。だがそれができぬ時には、この国はこのまま女王マユリアの統べる国となる。そういう運命だったと思うしかない。


 キリエは心の中でトーヤたち若い者の力で自分のような古い者を乗り越えてほしいと願っているが、侍女頭としてはこのまま真っ直ぐ進むしかない。とっくにその覚悟を決めたからこそ、神殿に向かって進もうとしている。


 先頭にミーヤとアーダが立ち、後ろのエリス様とベルを先導する。その後ろにフウとセルマ、さらに続いてアランとルギが並び、キリエは最後尾から一行の行く末を見つめるように進む。

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