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13 首謀者

 当代シャンタルは部屋に入るとあっちこっちに首を動かして、


「ここがアランのお部屋なのね」


 と満足そうに笑った。


「正確には俺だけじゃなくてエリス様、ベル、そしてルークの部屋ということになってますが」

「そうでしたね」

「ひとまずお座りください」


 アランはいつも仲間たちが座っている長椅子を当代に勧め、当代も勧められた席に腰を降ろしたので部屋の外から見ていたキリエはほっと胸を撫で下ろす。


「あの、とりあえず何がなんだか分からないのでみなさん中に入って事情を説明してもらえますか?」

「そうですね。ミーヤ、アーダ、みなさんを中へ」

「はい」


 急いでこの部屋の担当侍女のミーヤとアーダがエリス様、ベル、ラーラ様を同じように中に案内して長椅子に座らせ、次にキリエに椅子を用意した。


「私は結構です」

「そう言わずに座ってください、こう言っちゃなんですが、キリエさんはもう若くないんだし、話がどのぐらい続くか分からない中で立ってられたら落ち着かなくて話もできない」


 アランにきっぱりとそう言われ、キリエは黙ったまま差し出された椅子に腰をかけた。


「全員が座れるほどの椅子がないからなあ、とりあえずキリエさん以外の侍女のみなさんと隊長は立ってもらってていいですか」

「ええ構いません」

「構わん」


 ミーヤとルギがそう答え、座っている面々のそばに近寄ってその場に立った。


 席順はもちろん当代が一番上手(かみて)、テーブルのベッド側の扉から見て左だ。その隣にラーラ様、当代の向かい側にエリス様ことシャンタルとベルが並んで座り、ベルの隣にキリエだ。


 扉当代の後ろからキリエと共に付いてきた三名の奥宮の侍女続いてミーヤ、アーダ、フウ、セルマ、ルギも並ぶ。


「それで、そうそうたる顔ぶれが揃ってるわけですが、一体何があったんです?」

 

 アランがエリス様の後ろに立ち、しかめつらで一同を見渡して尋ねた。


 キリエとルギはいつものように何も変わらぬ表情だが、当代を除く者はみな困った顔をするばかり。もちろんエリス様とベルは顔をほぼ隠しているので表情は分からないが。


「わたくしが説明いたしますね」

 

 唯一にこにこ顔の生き神がそう言ってアランに一層の笑顔を見せる。


「あなたがこの騒ぎの首謀者でしたか」

「首謀者、素敵な響きね。わたくし、一度そのようなものになってみたかった」


 アランの言葉に当代が両手を合わせて大喜びする。


「それで、その首謀者は一体何をなさったんです、教えてもらえますか?」

「ええ、よろしくてよ」


 当代は面白くてたまらないという顔で笑って思わず両手で頬を押さえた。


「ああ楽しい、こんな楽しいことがこの世にあるなんて思ってもみませんでした。でも今は首謀者としてちゃんと説明しなくてはね」


 最後はラーラ様に向かって笑顔でそう言うが、ラーラ様は困った顔のままだ。


「エリス様とベルが神殿のマユリアに呼ばれたの。だけどそのままお二人で向かってもきっと行けないと思ったから、だったらわたくしがお連れしようかなと思ったの」


 当代は簡単に状況を説明する。その後にベルに言われたことは今は言うつもりがないようだ。


「でもわたくしは今は神殿に行ってはいけないのですって。キリエにそう言われていたから、それならばお二人をお送りしてわたくしはアランのお部屋に遊びに行けばいいのではないかと思いつきました」

「そんな簡単に」


 アランが驚くと言うよりも呆れてそう言うと、その様子がますます当代を面白がらせた。


「だからここからはミーヤたち担当の侍女に付いていってもらって、わたくしはアランとおしゃべりをしようと思っています」

「それはいいんですが」


 アランは口ではそう言いつつも目ではルギの姿を追う。


 つまり、ここからはルギが付いて一緒に神殿に行くということだ。ルギの手には剣がある。マユリアの命があればいつだって剣を振るうだろう。


「シャンタル、おしゃべりは帰ってきてからでいいですか、俺も一緒に神殿に行ってきます」

「えっ、アランも行ってしまうの?」

「ええ、俺はエリス様の護衛ですから。ルークが動けない今、俺が行かないでどうします」


 アランの思わぬ返事に当代は黙ってしまった。


「それにはっきり言いますがルギ隊長が一緒ですよね、隊長は剣を持ってます。俺は誰の剣からもエリス様を守る義務があるんです」

「ではルギが剣を持って行かなければアランも行かなくていいの?」


 当代はそう言ってルギに期待の目を向けるが、


「シャンタル申し訳ございません。この剣は此度の儀式に必要な物でございますので」


 と丁寧にだがはっきりと拒否をした。


「ということなんで、俺も行ってきます。分かってもらえますよね? 仕事ですから」

「そう、ですね……」


 当代は期待していたおしゃべりの時間が持てないと知って少しがっかりするが、それと同時に友達とはお互いに無理強いをすることがいけないとも知っているので納得するしかない。


「その間、俺に送ってくれた手紙を読んで待っててもらえますか?」

「え、わたくしが書いたお手紙を?」

「ええ、俺がどんなにわくわくしてあの手紙を読んでたか、そう考えながら読んでてください」


 この申し出は大いに当代を喜ばせ、アランも神殿に行くことに納得をした。

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