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10 女神の先導

「ありがとう」


 シャンタルは小さなシャンタルの答えに笑顔で頷くと、今度はラーラ様にそのままの笑顔を向けた。


「ラーラ様、詳しいことは戻ってから私たちから話すから、それまでシャンタルのことをお願いします」

「シャンタル……」


 ついにラーラ様は当代の前でエリス様が先代シャンタルであるという事実を認めた形になった。小さなシャンタルもラーラ様の顔を見てそのことを確信した。


「本当にご先代なんですね。湖にお帰りになったと聞いていたのにどうして」


 当代は困ったような顔でそう一言つぶやいたが、すぐに明るい顔になり、


「分かりました、お待ちしています。ご先代にはお聞きしたいことがたくさんあったんです。例えばわたくしが生まれるという託宣をなさった時どんな感じだったのでしょう。たくさんたくさんの託宣をなさったと聞いています。ああ、ご先代がいてくださったらどれだけいいかと何度も思いました。本当にたくさんお聞きしたいことがあるんです、だからきっと戻ってきてくださいね、お待ちしています!」


 一気にそう言い終わった。


「うん、分かった、待っててね」

「ええ、お待ちしています」


 にこやかにもう一度約束をし直す二人のシャンタルを見て、ベルはなんとなくやっぱりどちらも能天気だという言葉を飲み込んだ。


「な、なあ、そんなこと言ってる場合じゃねえよな、マユリアが呼んでるってなんだよ?」


 もうこうなったら侍女の設定なんぞどうでもいい、いつも口調に戻って確かめる。


「うん、聞こえたんだ、やっぱりシャンタルのお部屋にいたんですね、この声が聞こえたら神殿に来て欲しいって言ってる」

「そんなもんおれには聞こえなかったけど」

「多分私にだけ話しかけたからじゃない?」


 シャンタルはまるでそれが普通のように言うが、多分それは普通ではないとベルは思う。だけどそんなことで押し問答をしている場合ではない。


「兄貴やトーヤにも言っとかないと」

「そうだね。シャンタル」

「なんでしょう」

「申し訳ないけどアランに手紙で知らせてくれる? 私がマユリアに呼ばれたって」

「分かりました」

「お願いします」


 シャンタルはくるっとベルを振り向くと、


「さあ行こうか」


 と気楽に散歩にでも行くように言うが、


「行くってどうやって行くんだよ! おまえ、その格好で宮ん中歩いたらすぐ捕まるぞ!」


 とベルが現実的に判断する。


「そうか、そうだよね」

「考えてなかったのかよ!」

「そのまま行けると思ってた」

「おまえなあ……」


 ベルは呆れ果てて物も言えない。


「どうしようかなあ」

「あの、じゃあやっぱりわたくしも一緒に行きます」

「ええっ!」


 最後のはもちろんベルだ。


「わたくしがご一緒すれば、おそらく普通に通してもらえると思います。ね、ラーラ様」


 ラーラ様はベルのように声を出しはしなかったが、さすがにすぐに答えることは無理そうだ。


 小さな当代は何もご存じない。だから簡単に自分が付いていけば問題なく通れるだろうと判断をしただけのことだ。だがことはそんなに簡単なことではない。


「そうか、じゃあ来てもらおうかな」

「ええっ!」


 驚きの声はもちろんベルだ。どうやって当代を止めようかと考えていた時、一番見つかってはいけないはずの本人がのほほんとそう答えたのだから当然だろう。


「だ、だめだよ!」

「どうして?」

「どうしてって、考えるまでもねえだろうが!」

「えっ、そう?」

「だめに決まってる!」

「じゃあ、どうしたらだめじゃない?」

「ええっ!」


 ベルはシャンタルがどうあっても当代を連れて神殿に行くつもりだと分かった。こうなったシャンタルは誰にも止められない。


 出会ってからの三年の間にはそんなことを言ったことはほとんどなかった。だがこちらに来ることになった時にトーヤもそんなことを言っていたし、実際に船の上でもシャンタルがこうすると言ったことをトーヤは止めなかったと思い出す。


 予定より二年も早く交代の時が来たとシャンタルが言った時、トーヤは疑うこともなくシャンタリオに戻ることを決めたと聞いた。

 

『時々言うわけだよ。なになにしないと、とか、それはやらない方がいい、ってな。それは言ってみりゃどれも託宣みたいなもんなんだ』


 つまり今のシャンタルの言葉、それもやはり託宣と同じだと思った方がいいのだろう。


「分かった、そんじゃシャンタルとラーラ様にも来てもらおう。けど、いくつか約束ってか、決めておきたいことがあるんだ」

「うん、何?」


 ベルはトーヤとアランだったらこう言うのではないかと考えて、いくつかのことを決めた。


「そういうことで、絶対無理はしないこと」

「分かりました、ベルの注意を聞くことにします。それだったら構わないのね?」

「うん、しょうがないよ」

「うん、しょうがない、よね」


 ベルはすっかり侍女からいつもの自分、いつもの口調に戻っている。小さな当代はそのことも楽しいようで、ベルの口調を真似するとくすりと一つ笑った。


「うん、じゃあシャンタル先導頼む、って二人いるからややこしいな。えっと、じゃあ小さいシャンタル頼んだ」

「ええ、小さいシャンタル頼まれました、無事に皆さまを神殿にお届けいたします」


 当代はそう言って楽しそうにもう一度くすりと笑った。

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