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29 母の元へ

 トーヤは頭を下げ続ける親御様に困ってしまった。


 確かに自分はシャンタルを助けた。だけどその間にあったことを考えると、なんともひどいこともしている。結果的に助かったが、シャンタルが自分で自分を助けたと言えないこともない。逆に自分も助けられた立場でもある。それも伝えておかないといけないなと、トーヤは自分も立ち上がる。


「あの、それだったら俺も礼を言わないといけなくなる。俺は確かにシャンタルを、あなたの2番目の子を助けたけど、まあ色々ありまして、ある意味本人が自分で自分を助けたというか、俺の方が助けられたってこともありまして。まあ、そのへんの詳しいことはちょっと話せないんですが。そういうことで、頭、上げてもらえます?」


 なんとなくしどろもどろになりながらそう言い終わると、


「そうですか、分かりました」


 と、親御様が笑いながら頭を上げた。なんだかそんな部分まで子どもに似ている気がする。どの子だとは言わないが。


「じゃあ食べましょうか」


 親御様はそう言って座るとおいしそうに食事を続け、トーヤも苦笑しながら後に続いた。


 食事が終わって片付けに来てもらう間、もう一度トーヤは寝台に隠れ、それで今回のかくれんぼは最後になった。


「後はゆっくりお話ができますね」


 親御様は当代とよく似た面持ちでよく似た笑顔を浮かべる。やっぱりこの親子はそっくりだ。


「じゃあ、聞きたいことを聞いて下さい。多分たくさんあるでしょうから」


 トーヤは親御様がシャンタルが息子であると知っているのを聞くのは後にした。やっぱり聞きにくいのと、もしかしたら自分から言ってくれる可能性があるのではないかと思ったからだ。


「お聞きしたいと言うか、知りたいことならあります」

「なんでしょう」

「子どもたちを、返してもらえると思いますか?」


 短いが率直でごまかすことのできない質問だった。


 これはものすごく答えにくいとトーヤは考える。なぜなら知っているからだ、このままだと4人の子、全員が母の元に帰る可能性がないということを。


 長女のマユリアは女神マユリアに乗っ取られ、下手をするとこのまま何千年も女神としてこの国に君臨させられることになる。2番目の子「黒のシャンタル」はその(にえ)にされようとしている。マユリアの計画が成功するということは、つまりそういうことだ。この場合は2人共戻ることはない。


 その後の二人のことだが、これはトーヤにも実際のところはよく分からない。もしもマユリアの計画が成功したとして、当代は次代にシャンタルを譲ってマユリアになれるのか? マユリアが二人になることがあるのか? まずそれが分からない。

 もしも当代がマユリアになれないとしたら、当代にシャンタルを譲れないのではないかと思う。もしくはシャンタルが二人になる可能性があるのだろうか。


 今、実際にはシャンタルが二人いることになってはいるが、当代は託宣ができない。できないということは、もしかしたら本当の意味でのシャンタルというのは当代ではなくトーヤの仲間のシャンタルだけということになるのかも知れない。ならば当代から次代にシャンタルを譲るということは不可能だ。その場合どうなるのかは全く分からない。


 トーヤがどう答えようと言葉を途切らせたことで親御様の顔に不安が浮かんだ。


「いや、あの、違うんです」


 トーヤは慌てて何か言わねばと口を開くが、一体どう言ったものかとまだ迷っていた。


「返していただけるのでしょうか」


 親御様はトーヤだけが細くともすがることのできる糸だというように、同じ言葉を繰り返した。


「お返しします」


 トーヤの口からそんな言葉が流れ出て、親御様が逆に驚いて目を見開いた。


「ええ、返します。多分それが俺の役目なんです、助け手としての」


 親御様はじっとトーヤの顔を見つめていたが、


「信じていいでしょうか」


 と表情を変えることなく言った。


「うーん、それはなあ」


 トーヤが正直にそう言って困った顔になり、いっそその正直さにホッとしたのだろうか、親御様が表情を緩ませて笑顔になった。


「すみません。ですが全力を尽くしますとしか言えないんですよ。正直、八年前だってそりゃ綱渡りだったんですから。さっきも言いましたがシャンタルがいなかったら今頃俺はここにいません。いや、それ以前にマユリアがいなかったらそのもっと以前にいなくなってました。トーヤという名前をこの国の人に知られることもなく」

「そうなんですね」


 トーヤの言っている意味は本当には分からないが、そう簡単なことではないのだということだけは理解してくれたのだろう、その一言だけで親御様は後は何も言えない様子だった。


「俺を信じろ」

「え?」

「いや、八年前にこう言ったんですよ、俺」

「あの、それはもしかして」

「そう、あなたの2番目の子どもさんに。そう言って励まして、それで結局はなんとかなったので嘘をつかずに済みました。だけど今回は正直分かりません、どうなるのか。それでもできるだけのことはやります、そのことだけは信じてください。あなたの元に子どもさんたちを返すように努力します」


 これが今のトーヤに言える精一杯であった。

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