28 救いの言葉
トーヤはその後何をどう話せばいいのかと考えたが、とりあえず匿ってほしいということは伝えないといけないことに気がついた。
「実は、匿ってもらいたくてここに来ました」
「分かりました、いいですよ」
二つ返事に戸惑ってしまう。
「いいって、本当にそんな簡単でいいんですか?」
「ええ、だってあなたは助け手でしょう? 私たち家族を助けてくれる方だと夫が言ってました。だったらこちらもお助けするのは当然のことだと思います」
なんとも能天気なと思わずトーヤにある考えが浮かぶ。
もしかしたらマユリアとシャンタルが能天気なのは神様として育てられたからだけではなく、母親の血を引いたからなんじゃないか、思わずそう考えてしまうほどある意味単純明快。心配になるほどだ。
「呼ぶまでランプに火を入れに来ないでくださいと言ってるんですが、暗くなってきたのでそろそろ声をかけないと心配されるかも知れません。侍女の方が来られる間、寝台の下に隠れていてもらえますか?」
「あ、はい」
トーヤはすぐに寝台の下に潜り込んで息を潜める。
親御様が鈴を鳴らすとすぐに侍女がやってきてランプに火を入れ、灯りがトーヤにまで届いた。もしもこの状態で不審者だと騒がれたらまずいなと思いつつも、じっとしているしかない。
「もういいですよ。でも、もう少ししたらまた食事を持ってきてもらうのに呼ぶことになってます。その時にはまた隠れてくださいね」
なんだろう、なんだかどこかで聞いたことがあるような物の言い方だ。トーヤはそう思いながら外に出て、あっと思い出した。
「そうか、そういうことか」
「なんです?」
「いえ、やっぱり親子だなと思って」
この言葉に親御様は困ったような顔になる。
「そりゃそうですよね、会ったこともないんだし。でも似てるんです、当代シャンタルと」
「当代と」
「ええ、あなたの3番目の子どもさんと」
「そうなんですか」
親御様はほろりと優しい笑みを浮かべた。
「あの、他の方はどうなんでしょう」
「マユリアと先代ですか」
「はい」
その質問には単に二人のことを聞いているだけではなく、他の意味合いが含まれていることをトーヤは理解した。
「先代なんですが元気ですよ。俺と一緒に八年前にアルディナに渡ったんですが、今回の交代に合わせて戻ってきました」
「そうなんですね」
親御様は知りたかったことを知ったからだろう、本心から安堵した顔になった。
「それでですね、二人があなたと似てるかと聞かれると……」
どう答えたものかとトーヤは少しばかり考えて、
「やっぱり二人とも似てますね。でも一番似てるのは当代です」
と言い切った。
マユリアとシャンタルは同じ子どもと言ってもやはり何かが違うのだ。だがあの能天気だけは隠しようがない、そう思うとちょっと笑える。
「うん、似てます、やっぱり似てる。だからきっと次代様も似るんじゃないでしょうかね」
「そうですか」
トーヤの言葉に親御様はなんとも言えず幸せそうな笑みを浮かべた。
こうしてトーヤは親御様に一夜の宿を借りることになっただけではなく、食事も世話になった。
侍女が食事を運んでくる間はまた寝台の下に隠れていたが、出ていった後、向かい合ってテーブルについた。宮はやはりどこでも食べ切れないほどの食事を用意するものらしい。一人や二人増えてもあまり分からないぐらいのごちそうが並べられた。
八年前はいつももったいないからとミーヤに言って品数を減らしてもらっていたが、今はこの豪勢さがありがたい。正直、かなり空腹状態だったから。
「いつも一人で食べてますから、誰かと一緒にご飯をいただくのは久しぶりです」
親御様はそう言って無邪気に笑う。本当に子どもみたいな人の素直な笑顔にトーヤはやはり誰かを思い出す。ああそうだ、あいつだ、こういうところはあいつに似てる。
「そういうところはうちの仲間のシャンタルに似てる気がします」
「トーヤ様の仲間のですか」
「ええ、2番目の子どもさんです」
そこまで言ってトーヤは気になったことを聞いてみる気になった。
「あの、ご主人からどの程度のことを聞いてます?」
「どの程度のことって、どういうことでしょう」
「ええと」
2番目の子どもは男の子であるということ、それを知っているのだろうかと気になったが、やはりそのまま聞くことはためらわれた。
「八年前、俺がご主人と会った時のこととか聞きました?」
「はい、そのことを聞きました」
「どんなことですか」
「3番目の子が生まれてここから出た後、あの時は家がなかったので夫といっしょに宿屋に一緒に泊まりましたが、あんなことがあったもので生きる気力を失いそうになっていました。でもあなたが2番目の子を助けてくれると言っていた、そう言われて信じようと思ったんです。その言葉に励まされて生きようと思えました」
そこまで言って親御様は真顔になると、
「今、あなたの話を聞いて、やっぱりあの子も無事だった、あなたに助けていただいて元気でいるのだとやっと本当にホッとしました。ありがとうございます、あなたはやはり私たちの恩人です」
親御様はそう言って立ち上がり、座っているトーヤに向かって深く頭を下げた。




