表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
595/746

18 主導者

 ライネンがリュセルスの拠点の一つに到着した時、士気はこれまでにないほど高まっていた。ここは王宮へ攻め入るために集まっている一番血気に(はや)る者の部隊だ。


 この部隊を統率するのは「協力者」が派遣してくれた元憲兵だという体格のいい男だった。「仲間たち」の中では「タンドラ」と呼ばれているが本当の名前は分からない、仮の呼び名だ。


「来てくださったんですね。ライネン様のようなご立派な方が一緒とは、こんな心丈夫なことはございません」


 タンドラは大きな体を丁寧に曲げて会釈をし歓迎の意を伝えたが、本心はどうだか分からないものだとライネンは思っていた。ライネンを格上と認めるように丁寧に対応はするが、なんというか心がこもっていない、立場上一応そういう態度を取ってはいるが、心の中では特に敬う意思などないのだろうとライネンには受け止められた。


 タンドラはそれでも一応自分が説明をしていいかとライネンに許可を取ってから、明日の予定をもう一度「仲間たち」に説明する。


「いいか、間違いのないようによく確認してくれ。明日の昼前には王宮に到着し、皇太子が王宮を出た頃を見計らって国王陛下を出せと要求を始める」


 マユリアと現国王の婚礼の儀は午後から始まるはずだ。シャンタリオでの結婚式は慣例として午後の日が一番高い時刻から始められる。参加者に見守られる中で式を終え、その後で祝宴があり、陽が沈み「婚礼のランプ」の火が映える時刻になってから新居に見送られる。ランプの灯りが赤々と灯るように、二人にとって明るい人生の始まりになりますように、そんな願いがこめられている。ただ、今回の儀式がその慣例に習ってその時刻に執り行われるという確信は掴めていない。


 現国王が確実に神殿にいて周囲の人間が少ない時間、そこを狙って動かなければ作戦は失敗する可能性がある。だから時刻が何より重要になる。


「今度の儀式は公に時刻や式次第が告知されてはいない、だからこの時刻を見極めるところがむずかしいのだ。だが、幸いなことにに見られなくとも神殿近くに行きたいと望む民たちは多い。そこに紛れてできるだけ近づいておく。王宮や神殿の動きを見て、こちらも動く。その手順をもう一度確認しておいてくれ」


 タンドラは「仲間たち」に細かく指示の確認をしていった。


「以上だ。それでは明日に備えて皆、早く休んでくれ」


 今、この家には15名の「仲間たち」がいる。そこにタンドラとライネンを加えた17名が王宮への実働隊、ある意味最前線と言える。他に協力する仲間があちらこちらに分散していて、後を追って動く形だ。


 「仲間たち」を見送ると、ライネンは台所でタンドラと少し話をすることになった。


 ライネンは初めてタンドラをゆっくりと見た。がっしりとしたかなり強そうな男だ。元憲兵との触れ込みだが、これまでに会った時にはいつも神官服を着て背を丸めていたからか、ここまでしっかりとした体型だとは思わなかった。顔も強面(こわもて)と言える造りをしていて、こんな男に睨まれたら大抵の者はそれだけで萎縮するのではないだろうか。


 そういえばとライネンはなんとなく、タンドラと似たところのあるシャンタル宮警護隊隊長を思い出す。ライネンもほとんど面識はないが、何度か見かけたことがある。ちょうどこういう感じの男だった。


「それで明日のことなんですが」


 ライネンがそんなことを考えていると、ふいにタンドラが話しかけてきた。


「なんだ」


 できるだけ威厳があるように見えればいい、そう思いながらライネンが答えた。


「明日の儀式なのですが、宮から戻られたライネン様は正確にはいつぐらいから始まるかご存知ではないでしょうか」

「いや、そのような話は聞いていない」


 確かにその時間は気になるが、残念ながらそのような情報は一切流れてきていない。


「何しろ内容もなにもかもが秘密だからな。もしかしたら式に参加できるのではないかと多くの者が宮に滞在しているが、やはり誰も入れてはもらえないようだ」

「さようですか」


 タンドラがなんとなく含みのある笑みを浮かべた気がした。


「マユリアは午前から神殿に入られてお支度をなさるようです」

「なんだと?」


 突然そんなことを言い出したタンドラにライネンが声を高める。


「しっ、お静かに。他の者に聞かれてはいけませんので」


 タンドラはライネンに声を押さえさせて続ける。


「通常の式よりはやや早く始める予定だそうです。現国王陛下、いえ、皇太子殿下はお支度をなさって王宮を出られますので、少し遅れて正午少し過ぎには神殿に入られるでしょう」


 何を言っているのだこの男はとライネンはいぶかしそうな目をタンドラに向ける。


「なぜ私がこんなことを知っているのか不思議ですか? それはあなた方が協力者と呼んでいる方からそう伝えてこられたからですよ」


 つまりタンドラは協力者を直接知っているということらしい。


「ええ、そういうことです。ですから明日のことは全て私に任せていただきます。ただし、表面的にはライネン様の指揮の元で動く、これで問題はありませんよね?」


 その身分に一応敬意を払うが、実際はこのタンドラこそが主導者であるとの宣言であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ