4 一枚上手
四名の衛士たちがたちまち駆け寄り、アランを拘束する。
「何すんだよ!」
「先にあちらの部屋を探させてもらったが手紙はなかった。この部屋のどこかに置いているのだろう」
「やめろ!」
アランは必死に抵抗するが、さすがに精鋭の衛士四名に押さえつけられ、戒めを解くことができない。
ルギは応接にあるチェストに近づくと引き出しを開け、中から手紙の束を取り出した。アラン本人が言うように、几帳面にまとめてリボンで縛られている。
「やめろよ! 大事な友達からの手紙だ! 触るな!」
ルギはアランの訴えを無視して手紙を手に取り、元の席に戻ってテーブルの上に置いた。
「おそらく上が最近のものだな」
「誰が触っていいって言った! それは俺の大事なものだ! 触るなって!」
「この中のシャンタルからのお返事の中に、そういうことが書いてある可能性がある」
「そんなもんないって言ってるだろ!」
何を言っても冷静だったアランが必死に抵抗し、感情的に抗議することから、ますます怪しく見えてくる。
「大人しくしろ!」
ゼトだ。アランの左側で左手を押さえている。これまでアランの言動に反応してイラついていたゼトは、役目だけではなく個人的にも今の状態に少しは胸がすく思いだったようだ。
「悪いが読ませてもらうぞ、役目なのでな」
「やめろー!」
ついにアランはルギに対して絶叫した。その体をゼトたち四人が動けぬようにさらに力を加えて押さえつける。
ルギは一番上の手紙を取り出すと、シャンタルからの手紙だからだろう、丁寧に中身を取り出し、一度頭を下げてから便箋を開いた。
「友達からの手紙なんだ、やめてくれ! 頼む!」
この場にはアランの必死の頼みに誰も耳を貸す者はいない。ルギは何通かの封筒を開けて中身を丁寧に調べていった。
「何もない」
ルギは十通ほどの手紙に目を通すとそうつぶやいた。アランを押さえている衛士たちが隊長の言葉に顔を見合わせる。
「離してやれ」
衛士たちが手を離すとアランは飛びつくようにしてテーブルの上の手紙を抱え、ルギが読み終わった手紙に手を伸ばし、宝物のように大切にあらためてから元のように封筒に戻した。
「だから言っただろうが……」
アランは静かな怒りをルギに向ける。
「俺が初めて人からもらった手紙、それも友達からの。人生の宝物だ……」
「すまなかった」
ルギは立ち上がると深く頭を下げてアランに謝罪をした。
「それで、どうするんです。今度はシャンタルのところへ行って俺の手紙を調べますか?」
ルギは答えないが、そんなことはできないのは言うまでもない。
「どうでもいいですけどね、あんたらは俺があれだけやめてくれと言ったのに、友達との大事な宝だと言ったのにそれを無視して踏みつけにした。このこと、俺はずっと忘れない」
淡々とした口調だが、静かな中に内心の怒りがにじみ出ていた。
「分かったらもう出てってくれます? これ以上いられたら、俺、どうするか分かりませんよ?」
「分かった。すまなかったな。おい」
ルギが声をかけ、衛士たちは部屋を出て行った。最後に出たのはゼトだったが、平静を装いながら悔しそうな目をアランに一度向けてから、静かに扉を閉めた。
アランは衛士たちが出て行き、足音が遠ざかるのを確認してから、
「すみませんね、騙して。けど、うちの師匠の方があんたらの隊長より一枚上手だった、そんだけの話ですよ」
と、口にした。
からくりはこうだ。いつものやりとりの手紙の他に、アランは便箋を半分に切ってそこにシャンタルへのお願いを書き、シャンタルもその時に一緒に入れておいた残りの半分に返事を書いて返した。言ってみれば簡単なことだ。手紙のやり取りはその一回だけ、危険を少なくするためにも回数が少ないに限る。
その半分の便箋はすでに封筒から抜き取ってあり、いくら手紙を調べても、アランが二人を預かってほしいと書いた証拠は残っていない。
アランに届いたシャンタルからの返信は、ベルがシャンタルに持って行った。半分に切った便箋の下にアランからの手紙、上にシャンタルからの返事が書いてある元は一枚の便箋は、切り取った上下の部分にわたってアランが描いた花の絵があり、合わせると1枚の絵に戻る。
「合わせるときれいなお花になるの素敵だわ」
小さなシャンタルはとてもうれしそうに眺め、大事な宝物を手にしたように明るい笑顔になっていた。
「交代が終わるまで、これは私が預かっていてよろしいでしょうか」
「どうして?」
「これは魔法なんです。もしも誰かがその手紙を見つけたら、魔法がとけてしまうでしょう。交代が終わり、魔法の時間が終わったら、シャンタルにお返しいたします」
シャンタルはそのことも素敵な秘密のように思い、素直にベルに手紙を預けた。シャンタルの手紙があらためられる可能性はほぼないが念の為だ。
「ルギは鋭いからな、他の人間が思いつかなくてもあいつはシャンタルの部屋に目をつけるかも知れない」
さすがにトーヤはルギを甘くは見なかった。アランの大事な宝物を囮にしてでもシャンタルは守らなければならない。苦肉の策であった。
「今回限りです。もう二度と誰にも触らせませんから」
アランは手紙の束に優しく視線を落とすと、そっと誓った。




