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14 神の好物

 シャンタルとベルが神の部屋に身を隠した翌朝、1つ目の鐘が鳴るとラーラ様と「エリス様」がシャンタルの寝室にやってきた。そしていくつかのことを決めると、ベルとその主である人は二人でラーラ様の部屋に身を隠す。


 2つ目の鐘が鳴り、今日の担当のシャンタル付き侍女がシャンタルの部屋に入ってくると、すでに応接でラーラ様が座って待っていた。


「おはようございます。どうなさいました、何かございましたか」

「いえ、そうではないのですが、昨夜、シャンタルがよくお休みになれなかったもので」


 心配そうな侍女にラーラ様が事情を説明する。夜、ラーラ様を寝室にお呼びになられたのは事実だ。その理由である「エリス様」とベルのことは特に話さず、そのことだけを伝える。


「ですので、今朝は朝食をおとりになった後、お昼までお休みいただこうと思います」

「分かりました、他の者にもそう伝えておきます。キリエ様にも」

「ええ、お願いいたしますね。ですから今日はお部屋のお掃除は結構です。休んでいただくことを最優先にしてください」

「はい、分かりました」


 侍女に話を終えるとラーラ様がシャンタルを寝室にお迎えに行き、眠そうな顔のシャンタルが寝間着のままで姿を現した。


「今日はもう一度お休みになられますから、あまりお行儀はよくないですが、そのままでお食事をしていただこうと思います。終えられたらまた声をかけますので、それまで下がっていてください」

「はい」


 入れ替わりに食事係の侍女が入ってきて、支度を終えると下がっていった。


「もう大丈夫かしら?」

「ええ、大丈夫だと思いますよ」

「じゃあ、どれにしようかしら」


 シャンタルは少し眠そうではあるが、他の楽しいことがあることから、しっかりとした様子でテーブルの上を見渡す。


「エリス様は何がお好きなのかしら」


 小さな声でラーラ様に尋ねる。食事係を遠ざけたのは、「エリス様」とベルの食事を取り分けるためだ。万が一のことがあるため、二人はラーラ様の部屋から出ないことになっている。


「シャンタルがお好きなものをとおっしゃっていらっしゃいましたよ」

「ええと、わたくしは何が好きなのかしら?」


 シャンタルがそう言って首を傾げる姿にラーラ様も柔らかく笑い、シャンタルもラーラ様に向かってくすりと笑った。


 小さなシャンタルが初めてラーラ様とマユリア以外の人と食事をしたのは、アランとディレンであった。またエリス様とお茶会をしたいというシャンタルのご要望に応えることができず、キリエが苦肉の策として出した提案であったが、この出来事はシャンタルをとても幸せにしてくれた。生まれて初めてアランという友達ができ、手紙を通して心を通わせ、外の出来事も知った。その初めての食事会の時に、


『シャンタルのおすすめはどれですか?』


 アランにこう聞かれたのだが、シャンタルは戸惑うしかなかった。なぜなら、それまでそんなことを考えて食事をしたことがなかったからだ。何が何かも分からないほどたくさんの料理が目の前に並べられ、そこから取ってもらう物を適当に口にして、口に合わなければそのまま残し、おいしいと思えば全部食べる。その繰り返しだった。おいしいと思っても、それが初めて食べた物か、それとも前に食べたことがある物かも考えたことがなかった。

 シャンタルが困っていると、アランは自分で選んだ物を食べ、そしておいしいですよと勧めてくれたのだ。勧められるままにその肉の煮込みを食べてみたら、とてもおいしく、そして幸せに感じた。その日からその肉の煮込みはシャンタルの好物となった。


「わたくしの一番はやっぱりこれかしら」


 シャンタルは初めての好物を自分で皿に取り分けた。これもアランと食事をするようになって学んだことだ。自分で食べたい物を自分で取る、その作業のなんと楽しいことか。侍女に取り分けてもらった物を何かが分からず口に入れるのではなく、自分で選ぶことが好きになった。それ以来、食事の時には侍女を下がらせて、ラーラ様と一緒に気楽に食事をする日も作るようになった。


「あっ、そうだわ!」

  

 シャンタルはいいことを思いついた。パンに手を伸ばすとナイフで切れ目を入れ、そこにさっき選んだ柔らかな肉の煮込みと、香草をいくらかはさむ。


「遠足のパンと言うのですって」


 これはアランに教えてもらった食べ方だ。


「こうしておいたらエリス様もベルも食べやすいですよね」

「そうですね」


 シャンタルは魚や肉などを適当に取り分けて遠足のパンを6つ作り、ラーラ様が紙のナプキンで一つずつ包んでくれた。


「では、これは後でお渡しするとして、シャンタルはご自分のお食事を終えてください」

「分かりました」


 小さなシャンタルは生まれて初めてお友達のために作ったお弁当を見つめてにっこり笑うと、自分の朝食に取り掛かる。


「不思議だわ、どうして今朝はこんなにお食事がおいしいのでしょう。あっ、いつものラーラ様とのお食事ももちろんおいしいのよ? でも今朝は特別があるから、きっとそれでおいしいのだわ」


 これもアランに教えてもらったことだった。いつもと違うことをする時は楽しいのだと。

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