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19 三つの可能性

『分かりません』


『今のわたくしには、マユリアの心の内を知る術はほとんどないのです』


『マユリアが心の中の箱に入れたものを見る術は』


 シャンタルが言っていた草原の中にある箱のことだろう。ラーラ様とマユリアはシャンタルが自分たちのその身を使って外とつながることを許してはいたが、「黒のシャンタル」の運命につながる秘密はその箱の中に入れて隠し、決して見せないようにしていた。


「前のあんたらはそういうの全部共有してたってことか?」


『その通りです』


「そりゃマユリアもあんたと自分が同一だって勘違いしちまうよな」


 二千年にわたり心を共有していたシャンタルとマユリアがここに来て断絶。今回の事態の大きさをあらためてトーヤは感じていた。


「じゃあ、とりあえず俺らは当代はマユリアの中で寝てるだけ、そう判断して動く。マユリアを助ける。そしてシャンタルと一緒にこの国から連れ出す」

「おう、やろうぜ!」


 トーヤの言葉にベルがうれしそうにそう答えた。


「ちょっと待て」


 アランの冷静な言葉が盛り上がるトーヤとベルに待ったをかけた。


「なんだよ兄貴」

「おまえらの気持ちは分かる、俺だって多少はマユリアと関わりができちまったしな、できれば助けたいと思ってる」

「そうだろ?」

「けどな、違う時のことも考えとかなくちゃな。あんたも分かってんだろ、トーヤ」


 兄の声にトーヤを振り向いたベルが見たのは、困ったような顔で笑うトーヤだった。


「なんだよその顔」

「なんだっていつもの男前だろうが」


 いつものように軽口を叩くトーヤだが、その表情はとても言葉通りとは思えない。ベルが思わず無言でトーヤを見つめ直す。


「いや、アランの言うことも分かってる。つまり、マユリアが取り込まれちまっていなくなってる時のことも考えとけ、そういうことだろ」

「そういうこった」

「おれはそんなこと考えてねえから!」


 ベルが大きな声で反論するが今度はトーヤが冷静に返す。


「いや、それも考えとかねえとな。本家の神様にだって先の分かんねえことが起こってんだ、シャンタルだってそれは分かってるよな」

「うん、可能性としては考えてるよ」

「シャンタル……」


 家族で一番それを考えたくないはずのシャンタルの言葉に、べルもそれ以上は何も言えなくなった。


「でも俺も大丈夫だと思って動く。そんでいいだろ?」

「わかったよ」


 そう話が落ち着こうとした時、


「ちょっといいですか」


 思わぬところから声が上がった。


「俺はこの中で唯一マユリアと面識がないんですが、思うことがあります」


 ハリオだった。


「そういやそうだったな」

「ええ、シャンタルとはお会いしましたがマユリアとはないです」


 ディレンが気がついて言うのにハリオがそう答えた。


「ここの女神様とはお会いしてるので、どれだけきれいな人かはなんとなく分かってるつもりです。でも当代マユリアと面識はないんです」

「うん、それでどうした」

「会ったことがないからこういう風に考えたって思ってくれたらいいと思うんですが、ってか、あの、怒らないで聞いてほしいんですが、当代もマユリアと同じ考えで、一緒になって女王になりたいと思ってるってことはないですか?」

 

 一瞬、みなが息を飲む音がして、次々に「否や」の言葉が飛び交う。


「マユリアがそんなこと思われるはずがありません!」

「とんでもないこと言う人だよ!」

「俺もないと思う」

「マユリアに限ってそんなこと」


 どれが誰の言葉なのか、わあわあと周囲から飛んでくる声に思わずハリオがひるむ。


「いや、ないとは言えない」


 嵐の中、ひっそりと冷静に答えたのはアランだ。


「兄貴!」

「いや、ハリオさんの言うこと、三つ目の可能性はあると思う」

「三つ目の可能性?」

「そうだ。まず一つ目は当代が女神マユリアに取り込まれて消えてしまってる可能性」


 この言葉に場がしんと静まった。


 この場にいる者で直接当代マユリアと関わりのある者たちがまず黙った。そんなことはあってもらいたくない、だが可能性はある。

 直接会ったことはなくともダルの家族もそんなことはあってもらいたくないと、もちろん思っている。マユリアはシャンタルと並んで聖なる女神だ。その上ダルを通していかに素晴らしい方かを聞いているだけ、一般の民よりはマユリアを思う気持ちは強いと言えるだろう。


「そして二ツ目は裏表が入れ替わっただけ、当代は今のマユリアの中にいるが出てこられないだけだ」

「おれはそう思ってる!」


 ベルの即答にみなも黙ってうなずく。


「俺もマユリアとお会いして身近な人に思ってるからな、だからハリオさんの言う三つ目の可能性はすぐには浮かばなかった。というか、おそらく封印してたんだ、そんなことは思いたくなくて」

「アランの言う通りだな」


 トーヤもその三つ目の可能性に同意したようだ。


「ハリオさんの言う通りだ、その可能性はある」

「あるのでしょうか」


 ミーヤが否定してほしい、そんな表情をトーヤに向けた。


「ないと考える方が不自然だ。それにここでマユリアと話したことを思い出した。どうしたいか聞いた時三つの答えが返ってきた。親に会いたい、海の向こうを見たい、そしてここにそのまま残りたいとな。どちらにも第三の選択肢があるってことだ」

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