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 4 最初の一滴

「ではあの光が懲罰房の真実をトーヤに教えたということなのですか」

「そうなるな」


 この部屋にいるのは今はトーヤ、ミーヤ、ダル、そしてアランとベルの5人だ。マユリアについての話をする為に、ミーヤがゆっくり話をできるようにこの時間を選んだのだ。


 この時間の担当侍女はミーヤなのでアーダは月虹兵付きとしての業務に就いている。アーダは今回のことに関わるまではマユリアに直接お目にかかったことはない。変化があったとしても分かることがないだろう。

 それでもフウのように離れた場所にいる者の方が気づくこともある、何かなかったか思い出してほしいとは言ってある。


 ディレンとハリオはアルロス号だ。例の元王宮衛士トイボアとその妻の面会が明日なので、その為に話を詰めているだろう。


 だがミーヤはそろそろ部屋を出なければならない時間が近づいている。何しろ今は取次役の職務もある、八年前のようにずっとトーヤの世話係として一緒にいられるわけではない。


「もう時間もないからさっとまとめるぞ。なんであんなもんを俺に見せたのかとずっと思ってたが、多分それはマユリアの変化について何かを教えるためだ」


 そうだろうと他の者も黙って頷いた。


「もうそれで決まりってことだな」

 

 アランがトーヤの言葉にそう答える。


「ですがマユリアは神です。セルマ様や他の侍女達に対するように、その悪意が何かをできるものなのでしょうか」

「それだよな」


 トーヤもそう思う。


「怨念がどうのって言っても本家の女神、それもずっと年季の入ったベテランの神様になんかできるもんなのか?」

「しょせんは元は人だもんなあ、生まれついての神様には勝てっこねえように思うなあ」


 と、元神様の種であった童子のベルがうんうんと頷く。


「そうなんだよな。だとしたら、その一瞬で性悪(しょうわる)のお姉様方がなんかできたと言い切れなくなる」

「ってことは、関係なかったってことか?」

「うーん、どんなもんなのか」


 結局結論は出ないままだ。


「最初の一滴の可能性はないか」


 突然アランが口を開いた。


「なんだと?」

「その一瞬でその怨念たちがマユリアに何かできたとしたら、それぐらいなんだろうけど、それって大きい気がする」

「最初の一滴って?」


 この中で一番色んな話を知らないダルが聞く。ダルはミーヤの故郷の木の話も、ディレンとトーヤ、アラン、ベルが話していた「最初の一滴」の話も聞いたことがない。


「私もその話は知らないな」

「そういやそうだったか」


 そうだった。ディレンに八年前の話をする、その時にわざわざつらい話を聞く必要もないだろう、トーヤがそう言ってシャンタルを部屋から出した時に出た話だ。


「けど、本当はディレンとアランとベルに最後のシャンタルの話をした。そのためにおまえを部屋へ返したんだ」

「そうだったの」


 そう言ってトーヤが「半分の葉」と「最初の一滴」の話をする。


「あっちでアランとベルに八年前の話をした時に、アランはこいつが染まらない、そう言った」

「そういや言ったな」

「ああ」


 話を聞いてアランはシャンタルがトーヤと共に戦場に来た意味、トーヤと出会った意味をそのためではないかと言ったのだ。


「そんじゃマユリアは染まりっぱなしってこと?」

「また身も蓋もない言い方するよな、おまえは」


 ベルの言葉にトーヤが笑いながらそう答えたが、そういうことなのだろう。


「恐らく、そういうものに一番染まりやすい、一番真っ白なのはこいつ以外のシャンタルとマユリアだ。そして最初の一滴がマユリアの穢れない白にシミをつけた。それが最初の始まりだと考えてみるか」

「ちょいまち、そのマユリアってどっち? おれらが知ってる超べっぴんのマユリアか、その中の元はラーラ様の体の持ち主だった女神マユリアか」

「そりゃ中のマユリアだろう」


 トーヤがそう言うとミーヤが少しホッとした顔になった。


「もちろん俺らが知ってるマユリアにも影響があったかも知れん。だが、より影響を受けたのは中のマユリアだった可能性の方が高い気がする。なんでかってとな、外のマユリアにシミがついたとしても、中が無傷ならそのまま黙って交代させちまったらそれで終わりなんじゃねえかな」

「たしかに」


 なぜ女神が代々のシャンタルとマユリアの体を借りることになったか。それを考えるとそれが自然に思える。


「大体十年で限界が来るからシャンタルが交代する。人の世で生きているとどうしても穢れに触れるからだろうな。それはつまり、外の人間が穢れを受け止めてぎりぎりまでがんばって、それ以上になったら中の女神様に障りがあるから交代するってこった」

「トーヤの言い方も結構身も蓋もないよな」

「この方がてっとり早いだろうが」


 トーヤがベルのつっこみを軽くいなして続ける。


「マユリアは二十年だ。これは神様の格の違いだろう」

「本人がそう言ってたよな」

 

 女神シャンタルは光から生まれた「次代の神」だが、女神マユリアはそのシャンタルに仕えるために慈悲から生まれた神だ。


「本当なら人のマユリアがそういうのを受け止めてくれてた。だがシャンタルが弾き飛ばされた時の影響で、一瞬だけ中の女神様に一滴が届くほどの穴が空いた。そういう可能性はないか」

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