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 3 洗い出し作業

「つまりそういうこった」


 トーヤがアランの言葉を引き取って軽い調子で続ける。


「ミーヤの故郷の木の話はたまたまでかかったからなんとなく分かったが、多分そういう見えないことがいっぱいあるんだと思う。それは今回のことだけじゃなく、全く関係ない他の人間にもな。そして何かの時に山崩れみたいに真っ直ぐな道を邪魔してくるやつがいる。それを正すのがシャンタルの託宣ってやつなんだろうよ」

「そうなんだよね」


 ずっと黙って聞いていたシャンタルがしみじみと言う。


「結局は私が使う治癒魔法と同じようなものなんだと思う、託宣って。本来の道に進むために邪魔してるものがあったら、それを知らせて取り除く。その程度のこと」

「その程度って、それがかなりでかいんじゃねえかよ」


 トーヤがシャンタルの言葉に笑いながら添える。


「だからおまえはやっぱり大したやつだよ、さすが神様だ」


 そう言って普段より力を入れてトーヤはシャンタルの背中をどんと叩いた。


「痛いなあ」

「あぶねっ、お仕置きされるとこだった!」


 もちろん悪意で手出しをしない限り「痛くなる魔法」が発動することないのだが、トーヤがそう言っておどけて見せたことで場の雰囲気が和んだ。


「だからまあな、あんたも大層に考えるこたあねえ」


 まだミーヤはトーヤの言葉にも少しまだ少し硬い表情ではあったが、かなり力が抜けたのは見てとれた。


「で、だな、話を戻すぞ」


 トーヤが表情を引き締める。


「さっきも言ったが本ボシはマユリアの中の女神マユリア。これは間違いない。だがなんでそんなことになったのかが分からん。それをもう一度考える。そこまで言ったよな?」

「うん、きいた」


 ベルがこくこくと頭を振って答えた。


「そのマユリアの変化のきっかけを知る可能性があるのはリルとミーヤだ。ダルも多少は分かったかも知れんがおそらく何も出てこねえだろう」

「ひどいなあ。でも俺は確かに何も気がつかないだろう自信あるな」

「さすがダル」


 トーヤが笑いながらそう言う。


「リルがこうして書き出してくれたこと、あんたはここに何か他にないか思い出してくれ。他のやつはこの紙を分けてとっととここが怪しいんじゃねえかってことを見ていってくれ」


 トーヤの指示に従い手分けしておかしなところがないかを洗い出していく。手にした紙を見終わったら次の者に渡してを繰り返し、全員が一通り目を通し終わったところで一度意見を出すことになった。


「どうだ、なんか思ったことあるか」

「リルさんが淡々と箇条書きにしてくれてるが、大部分は取るに足らない主従の会話ってとこだな」

「同じことをしても私も似たようなことになるかと思います」

「そうだな」


 アランとミーヤの発言にトーヤも同意した。


「この中でいちばんでっかいと言えば、やっぱりこれだよなあ」


 ベルが指差した先にあったことを見て全員が頷く。


「懲罰房でのお籠り」


 シャンタルをラーラ様とマユリアから切り離すためにマユリアは十五日もの間、あの冷たく孤独な懲罰房に自分を閉じ込めた。


「その時にシャンタルが俺に弾き飛ばされてその衝撃を受けてる」


 リルがその時の状況も細かく書いてくれていた。


「場所が場所だし、そこにいたやつがあれだからな」


 アランがいつものように淡々と言うが、これはかなり大きいことだと思われた。


「私は後からその話を聞いたのですが、シャンタルが受けた衝撃をマユリアとラーラ様も受けたとだけ受け止めていました」

「俺はラーラ様が倒れたのを見てたけど、それでばあちゃんにラーラ様がどんな方なのかを話すことにした。それで終わったと思ってた」

「私もです」

「そうか」


 ダルとミーヤの証言にトーヤがまた少し考える。


「ラーラ様はそれで終わったんだろう、確かに。けどマユリアはもしかしたら……」

「その時に侍女の怨念の影響を受けた?」

「かも知れん」


 トーヤが自分に続けたアランの言葉に満足する。


「リルの報告書によるとマユリアは一声叫んで倒れたので、驚いてリルが助け起こしたら影響を受けただけだ、大丈夫だと言ったとある」

「本当に一瞬だな」

「そうだな。マユリア本人にも何があったかは分かっていないようだったがすぐに落ち着いたみたいだ」

「だがその一瞬に何かがあった」

「そう考えると色々辻褄があう気がするな」


 いつものようにトーヤがアランの言葉をすり合わせていく。


「俺とアランはそういう結論だが、あんたは実際に懲罰房に入ってて、そんであの水音を聞いたよな」

「ええ」


 ミーヤは思い出して思わず背中に寒気を感じた。


「どう感じた?」

「どうと言われても水音がするだけのことで特に不思議には思ってなかったんです。ですが」

「侍女にだけ聞こえると聞いてゾッとした」

「そうです」


 その後ミーヤとセルマは前の宮に移されたがあの水音はセルマに付いてきた。


「俺が懲罰房で見たことはまだ話してなかったよな」

「詳しいことは伺ってませんね。キリエ様からトーヤのおかげでお守りに気がついたと伺っただけです」

「そんじゃ今から話す。それを聞いてまた考えを聞かせてくれ」


 トーヤは光る石に伝えられた懲罰房のことをみなに話して聞かせた。

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