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 1 伝説の真実

「まだそのこと言ってんのかよ、ったくおっかさんはしつこいったら」


 リルの書類と伝言を受け取り、トーヤは言葉ではそう言いながらうれしそうに笑っていた。


「しかし書きに書いたもんだな。おまえももう読んだのか?」

「まあ一応さっと目を通したけど、本当にここまで書かなくてもいいのにってことまで書いてあった」

「さすがおっかさんだ」


 昨日、たまたま部屋を訪れたダルに事の次第を話した時には固かった空気が、リルの言伝(ことづて)で少し緩んだ気がする。


「私はその日はお休みをいただいて部屋でゆっくりしてたんですが、翌朝控室でリルに愚痴られてまいりました」

「おいおい、それまで持ち出すのか」


 ミーヤがため息をつくと、トーヤが肩をすくめてまいったなという顔になる。


「いえ、どうしてそういうことをなさったか、もう知っておりますから」

「助かった」


 あの日、キリエがトーヤの様子を探らせるためにリルを付けたこと、そしてトーヤがリルを追い出したことが今のことにつながっている。


「そう思うと不思議だよなあ」

「ええ、本当に」

「もしもあの日、何もなく一日リルに付いててもらったら、今の関係はなかったかも知れん」

「本当だよなあ、なんだかこれまであったことの全部が無駄じゃなかったような気までするよ」

「ダルはリルに告白なんてされてたから、余計そう思うのかもな」


 今だからこそ笑い話にできる八年前のことを思い出し、トーヤとミーヤとダルが笑い合う。


「なんでもかんでもむだはない、って言えばさ」


 ベルがふいっと思い出すように言い出した。


「おれもひっかかってることがあるんだよな」

「なんだよ童子様」

「うん、トーヤがミーヤさんから聞いた話だよ」

「俺がミーヤから?」

 

 トーヤとミーヤが思わず顔を見合わせる。


「大きな木の話」

「ああ」


 思い出した。トーヤがミーヤを脅してシャンタルとマユリアに会わせろと言った後、ミーヤが話してくれた故郷の木の話だ。


「あの木って、今もあるの?」

「私が物心ついた頃にはもうありませんでしたよ」

「ってことはさ、山崩れを受け止めるだけのためにあった木ってことになる?」

「言われてみればそうなるかも知れませんね。ですが、祖父がまだ子どもの頃の話だそうですから、詳しいことは祖父に聞いてみないとよく分かりません」


 ミーヤの言葉を聞いてベルが複雑な顔をする。


「一体何がひっかかってんだよ」

「いで!」


 トーヤがベルの耳をつかんでひっぱる。


「もったいつけねえで言いたいことがあるならとっとと言えってんだ」

「いてえな! 言うから離せって!」


 ベルがいつもとはちょっと違う、真面目な顔のままでそう答えた。思わずトーヤも真顔になる。


「いや、なんでもかんでもつながってんだな、と思ったんだよ」

「なんでもかんでも?」

「うん」


 硬い顔をしたベルはそう一つ答えて頷くとこう言った。


「その木さ、なんか、ミーヤさんが今ここにいるために生えてたような気がした」


 思わぬ言葉にミーヤの表情も硬くなる。


「私が、ここにいるために、ですか?」

「うん」


 言われてトーヤとアランも気がついたようだ。二人は硬い表情で目を見交わした。


「そういうこともあるってことか……」

「え、どういうこと?」


 ダルは木の話自体を初めて聞いたので意味が分からなくても当然だろう。


「もしもその木を植えてなくて、ミーヤさんのおじいさんの村が山崩れで飲み込まれたらさ、おじいさんはその時に助からなくて、そうしたらミーヤさんも生まれてこないだろ?」

 

 確かにそうなる可能性が高い。


「どの程度の山崩れで、どの程度の被害が出そうだったかは本当のところは分からんが、村の一つや二つぐらい飲み込みそうな山崩れだって言ってたよな」

「ええ、そう聞いています」

「もちろん、伝え聞いた話が大げさになるってのはあり得ることだ。ミーヤのおじいさんも子供の頃のことなら、余計に大きく思ってる可能性もある。けど」


 そこまで言ってトーヤが口をつぐんだ。


「な、なんだよ!」

「おまえの言う通り、その木の伝説がミーヤを今度のこと、黒のシャンタルに関わらせるためだった可能性もある」

「う、うん」

「だとしたらだ、こうも考えられんか」

「なんだよ」


 トーヤがアランにちらりと視線を向けるとアランもしっかり(うなず)いた。


「俺の考えも言っていいか」

「頼む」


 アランがトーヤから言葉を受け継ぐ。いつもの「すり合わせ」だ。


「もしかしたらその山崩れは、誰かがミーヤさんが生まれてこないようにするために起こした、そうも考えられるってトーヤは思ったんじゃないか?」

「その通りだ」


 ダルとベルが息を飲んだ。シャンタルだけはいつものように何を考えているか分からない、いつもの表情だ。


「そ、そ、そんなこと!」

「いや、おまえの考えの通りだとするとその可能性もある」


 言われてみればそうだとベルも思った。


「何しろ上から見たら全部がいっしょくたに見えるらしいからな。ここで邪魔してやろう、そう思ってその誰かがなんかした可能性もあるってことだ」


 アランの言葉にトーヤも頷いて続けた。


「もしかしたら、千年前からもうこの戦いは始まってたのかも知れねえな。そして最後の戦いに向けて事は大きく動き出してるってこった」

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