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 9 シャンタル臥せる

 その日は神官長の動きに絞って、何か思い出すことがあったらまた伝えるとミーヤは言い、ダルたちにも聞いてみることになった。ミーヤと交代に午後の担当であったアーダにも聞いてみたが、当時はまだ宮に入ったばかり、小さくてやはりあまり記憶にはなさそうだったのは、仕方がないことだろう。


 翌日、朝が来てもシャンタルの具合は良くなってはいなかった。


「なあ、トーヤの時はどうだったんだ?」

「俺は、次の朝にはもうかなり元気になってたがなあ」


 トーヤもそう言いながらシャンタルの顔に触ってみるが、


「熱もあるな」


 状態は良くなるどころか悪化しているようにも見える。


「さすがに自分で自分に治癒魔法をかけるわけにもいかないしなあ」

「そうだね、プラスマイナスでゼロ、やるだけ損な気がするね」


 アランの言葉にそう言って笑うシャンタルだが、その言葉にも力がない。


「お医者様に診ていただくわけにもいかないですよね」


 様子を見に来たアーダもそう言って心配する。


「なあ、トーヤの時はなんか元気になるようなこと、なかったのかよ」

「そう言われてもなあ……」


 トーヤも思い出そうとするのだが、1回目のシャンタルと目が合った時にはひたすら寝ていただけだったし、溺れる夢の時も、そしてシャンタルをはじき飛ばした時もそう特別何かをしたという記憶はない。看病をしてくれていたミーヤや、偶然そばにいたダル、そして黒い棺を見せようとやってきたキリエに聞いても、みんな同じように言うだろう。


「ないなあ」

「たよんねえなあ……」


 ベルはトーヤが役立たずのように睨んでからため息をつくが、どう言われてもどうしようもないことには変わりない。


「なあ、なんか食べたいもんとかねえのかよ」

「あんまり食欲もないんだよね」

「困ったなあ、どうすりゃいいんだよ」


 ベルはただ一人の「ダチ」の見たことがない様子に、どうしていいのか分からずこちらの方こそ倒れそうな顔色になっている。


 そこまでの反応はしなくとも、トーヤとアラン、そしてアーダも心配する気持ちは同じだ。


「一体どうしちまったんだろうな」

「そのぐらい相手の力が大きかったってことか?」

「それか、もしかして、今も相手の手の内にいるから復調しねえってことは?」


 トーヤはアランの言葉を聞いて、それもあり得ると思った。

 これまでの推測通り、もしもマユリアの中にいる何かの影響だとすると、宮の中ではそいつの力が大きいのだろう。もしくは、この中にいる間は生命力を吸い取られるとか、なにかそういうことでもあるのかも知れない。


「もしもそうなら、シャンタルを宮から出さねえといけねえってことになるよな」


 ベルが心配そうにそう言うが、


「その場合ここから出られるかどうかからかもな」

「そんな!」


 トーヤの言葉を聞いて思わずシャンタルの手を握りしめた。


「どうしてやりゃあいいんだよ」

「まあ待て、俺ほど体力がないし、単に治るのが遅れてるだけかも知れねえ」

「そう思ってないだろ?」


 ベルがトーヤの言葉をばっさりと否定した。


「トーヤも何かあるんじゃねえかと思ってるんだよな」


 図星だった。


「けど、調べてみないことにはなんとも言えねえだろうが」

「そんなこと言ってる間にシャンタルがどうにかなったらどうすんだよ!」


 ベルの言う通りだが、だからといって何をどうすればいいのかが分からない。


「なあ、なんか方法ないのかよ」


 ベルに言われなくてもそれは皆が思っていることだ。だが、その方法が分からない。


「なあって、トーヤ!」

「うるせえな! 俺だってそんなもんがありゃ、すぐにでも楽にしてやりてえよ!」


 思わずトーヤもイラだつ。


「そうだ、お守り!」


 ベルがふと思い立つ。


「俺の青い鳥はリルんところだろ? フェイはミーヤさんところにいるんじゃねえの!」

「聞いてきます!」


 アーダが急いでミーヤの部屋へ行くと、ちょうどミーヤはいたのだが、話を聞いて顔を曇らせた。


「実はセルマ様と一緒の部屋に置いてあって、意味もなく持ってきては不審に思われるのではないかと」


 ミーヤも急いで部屋へやってきてそう言う。


「一度はこの部屋に置いてはいけないと言われたんですが、それでもそっと置いているのにセルマ様も気がつかれています。それをいきなり持ってきたら、どう思われるか」


 セルマにそんな不信感を抱かせるのもまずいような気がした。


「じゃあ、リルのところに取りに行ってもらえば」

「ダルは今日は来ません。誰が取りに行くかですよね」


 アランは一人で勝手に出ることはできない。必ず衛士が付いてくる。


「船長とハリオさんは明日にならないと帰らねえ」

「そんな……」


 このまま弱っていったらシャンタルは明日、どうなっているか分からない。それぐらいみるみる弱っていっている。今ではこちらの言葉にも軽く首を振るだけ、言葉を口にするのもつらそうだ。


「どけ」


 トーヤがベルを押しのけ、シャンタルの横に座った。


「どっちの青い鳥もだめってのなら、これしかねえだろう。ただ、これを使ってどうなるかは俺にも分からん。もしかすると、これの存在を気づかれてまずいことなる可能性もある。けど、シャンタルの命には変えられねえ」


 トーヤはそう言うと、懐に手を入れた。

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