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19 品定め

 前国王派の若い貴族たちが、そんな思い込みの勝手な推測で計画を固めた翌日、彼らは早速行動に移した。動きが早いのは若者の特権というやつだろう。


 その朝、ミーヤがセルマの世話役として入っている部屋から出てくると、部屋の前に座っている当番の衛士の横に、どうやら高貴の出であると分かる若者が2人、一緒に座っていた。


「おはようございます」


 ミーヤは何があったのだろうと思いながら、いつものように挨拶をして廊下を奥宮の方へ向かって歩き出した。すると、その後ろから貴族らしい2人が一緒に付いて来る。

 ミーヤは少しは気にはしたが、この2人が前の宮の客人であることを知っていたし、自分たちの部屋へ戻るのだろうと、特に気にはせずに目的の部屋へと向かった。


「おい」


 ミーヤが自分の担当であるアラン、ディレン、ハリオ、そこに隠れてトーヤ、ベル、シャンタルがいる部屋の前まで来ると、例の2人がミーヤに声をかけてきた。


「はい、どうかなさいましたか?」


 ミーヤは扉を叩きかけてやめ、2人を振り返ってそう言った。この方たちは何か用があって侍女である自分に付いてきて、そして声をかけたのだろう。そう思って。


「おまえはその部屋と、もう一つの部屋の担当をしているな?」

「え?」

「その、もう一つの部屋の中にいる者について聞きたいことがある」


 この方たちはセルマ様について何を聞きたいというのだろう。一体何を知っているのだろう。ミーヤは警戒体勢に入った。


「そんなに警戒しなくてもいい」


 さっきの2人とは違う男が、ダルの隣の部屋、自分たちが滞在している部屋から出てきてそう声をかけてきた。


「いえ、警戒などと」


 ミーヤは失礼がないように、正式の礼ではなく、もう1つ略式の礼をしてその男に答えた。


 この方は存じ上げている。確かバンハ伯爵のご子息でヌオリ様とおっしゃった。前国王陛下に謁見を求めて、そのために宮へ滞在しているのだと伺っている。


 ヌオリは目の前にいるオレンジの衣装の侍女を上から下までジロジロと見て品定めをする。


(ふうむ、確かに飛び抜けて美しいというわけではないな。だが可愛らしくはある。年の頃は二十歳をいくつか過ぎたというところか)


 ミーヤはそんなヌオリの視線に心地悪さを感じたが、何かを言われたりされたりしている訳では無いし、しかも相手は伯爵家のご令息、何も言えずに黙ってそのまま我慢をしていた。


(特にこれといって色気を感じさせるわけではない。その手の女はどこぞからそのような風情(ふぜい)(ただよ)ってくるものだが、この感じはまるきり素人だな。こんな女に海千山千の傭兵のような男をどうこう扱えるものなのか?)


 ヌオリのミーヤ観察は続く。ヌオリの中では完全にミーヤは「その手の女」であり、今まで自分が関わってきた貴族相手のそのような女達と色々比較をし、どの程度の評価をするべき相手なのかを値踏みしている。今は完全に政治的に目的はなく、自分の好奇心と欲望だけの視線をミーヤに向けていた。


(やはりよく分からんな。こういうのは試してみないと分からないということか)


 ヌオリの視線がねばっこく変化してくる。

 ここにきて初めて、ミーヤも心地悪さを超えて不愉快であり、そして不安な気持ちを抱き始めた。


 ミーヤはシャンタル宮の侍女である。侍女というものはその一生を女神シャンタルに捧げる清らかな存在だ。よって、そのような視線で侍女を見る者はいない、見られたことがないとミーヤも思っている。よしんば、もしもそのような者がいたとしても、それは侍女からは見えない場所でのことだ。少なくとも侍女に直接、そのような視線を送る者などほぼないと言っていいだろう。


 だが、目の前にいるこの高位の貴族のご子息は、その今まで向けられたことのない視線で自分のことを、上から下まで舐め回すように見ているのだ。ミーヤは一刻も早くこの場を立ち去りたいと思った。


「あの、何か御用がおありでしょうか? 必要でしたら部屋の担当の侍女を呼んで参りますし、私で済むことでしたら承りますが」


 ミーヤの言葉を聞き、ヌオリは驚いたように目を見開く表情をし、


「なんと、用があったら聞いてくれるそうだぞ」


 と、2人の男に楽しそうに言った。


「本当か?」

「あ、はい、私でできることでしたら」

「ほう、できることなら、やってくれるのか」

「え、ええ」


 ミーヤが戸惑いながらそう言うと、3人の男がまた意味ありげに笑った。


「じゃあ、おまえがあの部屋の男にしているような世話をしてもらおうかな」

「え?」


 あの男とは誰のことなのか。ミーヤは一体何を言われてるのかがさっぱり分からない。


「あの、あの部屋の男性とは、一体どなたのことをおっしゃっていらっしゃるのでしょう?」

「大丈夫だ、心配しなくても黙っていてやる」

「は?」


 何を言われてもミーヤには心当たりのないことである。


「あの、申し訳ありませんが、私にはよく分かりかねます。やはりこの部屋の担当の者を呼んで参ります」


 ミーヤがそう言って軽く会釈をし、急いでその場を立ち去ろうとした時、


「待て、おまえでないと役目を果たせんだろう」


 と、若い男の1人がミーヤを捕まえようと手を伸ばしてきた。

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