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20 王家の血

 神官長はそう言い切ると、マユリアの顔をじっと見上げた。


 高い位置に背筋を伸ばして座っているマユリアと、低い位置から熱を入れて話している間に前のめりになっていた神官長。視線の高さにより高低差ができていた。


 神官長は下から期待に満ちた目を女神に向ける。

 マユリアは少し伏せ気味の視線を上からゆっくりと投げた。


「それで、その話をルギにしたのですか。ルギの気持ちがよく分かる気がします」


 その視線には哀れみが含まれている。


「いえ、ルギ隊長にはここまでの話をしてはおりません」

「では、ルギに何を話したのです」


 そう聞いて神官長は小さく含み笑いをした。


「気になられますか、私がルギ隊長にどのような話をしたのかが」

「ええ、同じ話をしたものだとばかり思っていましたから」

「隊長にはここまで詳しい話はしておりません。ただ、本当の女神の国を作りたいとだけ。それには隊長も納得しておられたと思います」

「ルギがですか?」

 

 マユリアはその言葉を信じてはいないようだった。


「まあ、いいでしょう。後ほどルギに何を聞いたのかを尋ねてみます。それで、神官長はその方法が一番いい方策だ、そう言うのですね」

「はい」

「そうですか」


 マユリアはそれを是とも非とも言わず、神官長の言葉を聞いた、という形の返事をした。


「話はそれで終わりですか?」

「いえ、ここからが始まりの話です」


 神官長の言葉にマユリアは少しだけ首を傾け、


「分かりました。約束です、続きがあるというのなら聞きましょう。ですが、できるだけ早くお願い致します。わたくしにもやらねばならぬことがあるので」


 と、静かに答えた。


「はい、ありがとうございます」


 神官長は頭を下げようとして、やめて、


「では、どうしてそうなるとマユリアの地位が高いということを分からせることができるかですが、それは、そのような国の者は、相手の地位の高さを王家との関わりでしか見ることができないからです」

「そうなのですか」


 マユリアはあまり興味がなさそうに神官長には見えた。


「はい。例えば西の大国アルディナ王国においては、アルディナ神殿の大神官(だいしんかん)聖神官(せいしんかん)は非常に地位が高うございますが、それはその役職に就くのが王家の人間だからでございます」

「そうなのですか」


 光の女神アルディナの作りし光の王国アルディナ、そこの神殿の話だけに、多少の興味を引いたようだと神官長は考えた。


「はい。大神官と聖神官、それぞれに男性と女性がその地位に就きますが、女性の(かた)は必ず王家の血を引く女性と決まっているのです。ちなみに今は大神官が現在の国王の王女、聖神官がその大叔父であったと記憶しております」

「本当に色々とよく知っていますね」


 マユリアは神官長の博学に驚いているようだった。


「ありがとうございます。ですが、あちらの情報がこちらに届くまでに時間がかかりますもので、あくまでも、私が知った最新の情報ということで、その(のち)に交代がありましたら、他の方に変わっている可能性もございます」


 神官長は正直に自分の知識の限界を伝えた。


「大神官には女性が、聖神官には男性が就かれるということですか」


 やはりマユリアの興味を引いた。神官長は満足する。


「いえ、大神官の(ほう)が地位が高く、男性、女性、どちらがその(にん)にあたるのかは、その時の人次第のようです。能力の高い方が大神官職に就かれるとか」

「そうなのですか」


 マユリアは素直に関心をしている。


「はい。ですが、そのように(たっと)ばれるのは、やはり王家の血族だからです」

「そうなのですね」


 少しはお分かりいただけたようだと神官長は思った。


「今の大神官、アルディナ王女はまことに徳高く、素晴らしい方だそうです。ですがそれも、王女であるがゆえのこと、王家の一員だからこそ、そう認めてもらえるのです。もしもこの方が市井(しせい)の者であったなら、とてもそのような高位の職に就けることはなく、なれたとしても、町の神殿の神官か、神官学校の教師までだとの話です」

「そうなのですか」


 代々のシャンタルは血筋で選ばれるわけではない。よって、もちろんマユリアも自然とそうなる。貧しい家の者もあれば、王家の出身の者もいる。ただ託宣によって先代が次のシャンタルを見つける。みな平等に神によって指名される。それを二千年の間繰り返してきたシャンタリオにおいては、それはなかなかに理解しにくい事柄であった。

 おそらくマユリアにも頭では理解出来ても、心では理解出来てはいないだろうと神官長は考えていた。


「きっとお分かりになりにくいと思います」

「ええ。知識としてそうなのかとは思えても、何故、神に仕える者に王家の血筋が必要なのかは理解できません」

「そこなのです」


 神官長はやっと思ったところまで話が進んだと思った。


「しかし、外の国ではその方が普通の考えであることが多いのです。シャンタリオのこと、シャンタルのことこそ理解できないのです。それゆえ、シャンタルを、マユリアを、ただ美しい飾り物のように見る者がおるのです」

「そうなのですね」


 マユリアにもなんとなく理解していただけた。

 神官長はそう手応えを感じていた。

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