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13 仮定の敵

『申せません』


 女神がもう一度そう言う。


「あんたなあ!」

「待て」


 さっきの感情のまま、女神に掴みかからんばかりのアランをトーヤが制した。


「ちょっと落ち着けって、隊長」


 と、言ってから、トーヤが他の隊長を浮かべて少しばかり嫌な顔をする。


「まあ、いいや。とにかくちょっと待て」

「でも!」

「おまえらしくねえなあ、なんでそんな必死になってる」

「いや……」

「とにかく落ち着け、な?」


 珍しく、熱くなっているアランをトーヤが落ち着かせている。


「そんで、なんで言えねえんだ? その理由を聞かせてもらいたい」


 トーヤが静かに聞く。


「それは、もしかして運命に関わることだからですか?」


 ミーヤだ。


「八年前もそうでした。運命を変えるようなことは口にできない。あの時、マユリアもラーラ様もそうおっしゃって苦しんでいらっしゃいました」

「やっぱ、それか」


 トーヤにもなんとなくそうではないかと推測はついていた。


「言えないことには沈黙。これにどんだけ振り回されたか、あの時も」


 トーヤがそう言ってため息をつき、ミーヤに視線をむけた。


「今のアランみたいにぶっちぎれたこと、何回もあったよな」

「そうでしたね」


 ミーヤも思い出してそう答える。


「だからまあ、分かった。あんたの運命に関係あること、だから言えない、そんでいいか?」


 そう、何度も経験してきたことだ。どの道を選ぶかで運命が大きく変わる可能性がある時、ラーラ様もマユリアも、そしてキリエも、皆が口をつぐんでしまうのが、その時だった。


「言えないことには沈黙を、だよな?」


『その通りです』


 女神が認める。


「もうちょいだけ」


 トーヤが女神に提案するように言った。


「あんたはさっき、力を奪おうとしている者がいる、そう言ったよな」


『その通りです』


「ってことは、下手すりゃそいつがその力を使ってあんたに勝つ、そういう可能性もあるってことだ」


『その通りです』


「それは、もしかしてこの世の運命を決める、そういうことでもあるのか?」


『そうなのかも知れません』


「ふうん……」


 トーヤが女神の言葉に厳しい顔になる。


「あんたにも、それすら分からん、そういうこったな?」


『そう思っていただいていいかと思います』


「そうか」


 トーヤがさらに厳しい顔になる。


「そんだけ厳しい状態ってことなんだな。八年前、こいつを逃した時よりも」


『どちらがどう厳しいか、それは比べられることではありません。どちらも同じぐらい大事なことでした』


「そうか。そうだな」


 それはそうだろう。もしも、八年前にトーヤがシャンタルを連れ出すことに失敗していたら、今のこの状況はなくなっている。


「ほんとに、薄い氷を割らずに歩くようなことが続いてるってことみたいだな。それじゃあ聞き方を変える。答えられることがあったら答えてくれ」


『分かりました』


「神官長を裏で操っているやつがいるんだよな」


 女神は答えない。


「そんじゃ、そういうやつが裏にいると仮定する。そいつのことは、俺たちが自分で探せ、そういことだな?」


『そう思っていただいていいかと思います』


「あんたは、そいつが誰だか知ってる」


『そう、思っていただいていいかと思います』


「って聞いても、俺たちにあんたの人間関係、じゃなくて神様関係はよく分からんからな。とにかく、そいつを探し出せばいいってことか?」


『そう、思っていただいていいかと思います』


「分かった。じゃあ、そいつを見つけ出して、こいつがそうだろうって確かめたい時、その時には答えを教えてもらえるのか? 見つけたと思ったら、それは間違ってました、なーんてのはシャレにならんからな」


『おそらく、その時があなたたちとお会いする最後の時になるでしょう』


「なんだって?」


『今日は長くお話しできましたが、これはあなた方の心が落ち着き、この場に慣れたこと。それから心を一つにこのことに向かい合おうと思ってくれたことからできたことなのです』


 そう言うと、女神の姿がすうっと薄れていった。


「お、おい!」


 女神が行ってしまおうとするのかと、トーヤが急いで引き止める。


『大丈夫です。この形を取っているのがつらくなってきただけです」


「つらい?」


『なぜなら、わたくしにはもう姿というものがなく、今は元の姿を借りていただけ』


「あ、そういうことか!」

「そうか……」

「ああ、なるほど」


 神としての姿、それはもうすでに人として生まれてマユリアと、そしてシャンタルの肉体になっている。

 神の身がないということを、なんとなく皆が理解できた気がした。


「ということは、さっきのは、うーん、なんてんだ? 幻みたいなもんか?」


『ええ、その通りです』


 光がただただ静かに光っている。


「ってことは、今のそれ、その光があんたの本体ってことなんだな?」


『本体、ですか。そう言っていいのでしょうね』

 

 光が楽しそうにゆらめいた。


『マユリアを助けてください』


「なんだって?」


『今、言えることはそれで最後です』


 また光が揺らめく。


「おい!」


『あなた方が真実に気づいた時、もう一度だけお会いできると思います』


 そう言って光は静かに消えてゆき、皆はそれぞれの部屋へと戻った。

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