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22 困った二人

「ほんとにつらそうですよ、あの、俺のベッドでよかったら横になってください」


 アランがミーヤの顔色を見て心配そうにそう言った。


「いえ、大丈夫です、ご心配をおかけしました」


 ミーヤはアランの申し出を固辞し、椅子に座ったまま動かない。


「フェイちゃんと特別に仲がよかったからなあ、ミーヤは……」


 ダルのつぶやきが聞こえてきた。


「そうだったよなあ、本当の姉妹みたいだったもんな」


 ダリオもそう言う。


「ほら、やっぱりちょっと堪えてるんですよ、横になってください」


 もう一度アランが心配そうにそう声をかけた。


「いえ、本当に、もう大丈夫ですから」


 ミーヤはそう言って、逆に立ち上がろうとする。


「ほんっとに侍女ってのは融通が利かなくて困るよな」


 イライラしたようなトーヤの声が聞こえ、ダルもダリオもアランも驚いてそちらを見る。


「いっつも思ってたんだがな、なーんで立ったまま話聞いてんだよ。ここは宮じゃねえし、宮だったとしても部屋の中と一緒だ。座るなり寝っころがるなり、聞きやすいように聞きゃいいだろうが。それを無理してつっぱって、立ったまま聞いてようとするから気分が悪くなるんだよ」


 「侍女」と言ってはいるが、明らかにミーヤに向けられた言葉であった。


「分かったら、とっとと寝るなりなんなりして、楽に話を聞いとけ!」


 イラついたように、ぶつけるようにトーヤがそう言って、プイッと横を向いてしまった。


「大丈夫ですから!」


 ミーヤがムカッとしたようにそう言うと立ち上がり、


「失礼いたしました、どうぞ続けてください」


 そう言って皆に頭を下げた。


「ミーヤ様……」


 アーダが横でおろおろしている。

 アランも手を貸していいのかどうかという表情だ。


 他の者もみんな、どうしたものかという顔をしている。

 ここが、不思議な空間で、不思議な光に不思議な話を聞いていることを、すっかり忘れてしまったかのようだ。


「まあ、ミーヤも疲れたらその時また座ればいいし、とにかく話を続けようよ。ね?」


 いつものように能天気な声がした。


 トーヤはその声にもイラッとしたようで、こちらは緊張のきの字もないように、床にべったりと座り込んだシャンタルをにらみつける。


「トーヤも座ったら? そう言ってた本人が立ちくらみしたりしたら、その方がおかしいよ」


 と、シャンタルがさらにすましてそう言った。


「そ、そうだな。とりあえず座ろうぜ!」


 ベルがすっくと立ち上がり、トーヤの手を持って、


「さ、座ろう座ろう」


 と、引っ張って座らせ、


「ミーヤさんも無理せず座った方がいいよ。兄貴、ミーヤさん頼んだぜ」

「あ、ああ」


 アランにそう声をかけると、トーヤがそれを気にいらなげにアランにきつい視線を向けた。


「あ!」

 

 その瞬間、ベルには分かってしまった。


「あっちゃあ……」


 しまった、という風に両手で頭を抱える。


「ん、どうしたの?」


 シャンタルがベルに声をかけるが、


「いや。なんでもねえ、続けてくれ」


 と、雑談でも止めてしまったかのように、ベルが続きを促す。


「そうなの? じゃあ続けてくれますか?」


 それをまた当然のようにシャンタルが受け流し、光にどうぞとばかりに声をかけた。


(おれ、分かっちまった……)


 ベルは勘がいい。

 時には予言と思えるぐらい、ピタリと物事を当てることすらある。


 その勘が告げていた。

 この二人がどうしてこんな様子なのかを。


(ほんっとに困った二人だよなあ……)


 ベルにはミーヤが具合が悪くなった理由が分かってしまった。


(ミーヤさん、おれたちにヤキモチ焼いたんだ)


 今まではトーヤと自分たちがいつもの調子でやり取りするのを、微笑ましそうに、楽しそうに見ていたので、ミーヤにはそんな感情などないように思ってしまっていた。


(けど違ったんだ、ミーヤさんも普通の人間だったんだよな)


 自分がフェイに対して抱いたような感情を、なぜか急にミーヤは自分たち、もしかすると自分に抱いてしまったのだろう。


(そんで、それにショック受けてんだよなあ、多分)


 その通りであった。

 ミーヤは自分の内側のもやもやする感情に、フェイへのつらい悲しい、そして愛しい思いが相混ぜになり、神経が疲弊してしまっていた。


(今日、トーヤがなーんか機嫌悪かったのは、あれは昨日おっかさんに言われたことのせいだよな)


 その通りであった。

 ナスタに言われたこと、ミーヤが待っていてくれたんだろうというあの言葉、あれにかなり堪えてるんだな、と推測した。


(もしかしたら、あの後でばあちゃんにもなんか言われたのかもしんねえなあ)


 その通りであった。

 ナスタに言われた言葉に戸惑うトーヤは、今度はディナに、人と人との関係は一つではない、無理にくっつけようとして壊れることもある、そう言われた。ベルはその後で席を立ったので聞いてはいなかったが、その何かにきっともっと堪えたんだろう、と推測をした。


(トーヤがトーヤなら、ミーヤさんもミーヤさんだよなあ)


 そう長くはない付き合いの中、ベルはミーヤの性格に、かなり気づいていた。

 いつもは柔らかく、何に対しても穏やかだが、その本質はかなりの頑固者だ。


(ほんっとに困った二人だよなあ)


 ベルはもう一度そう思って、大きく一つため息をついた。

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