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17 心付けと手紙

 ハリオの隣の部屋の客、それはダルの推測通り、王宮に前国王への面会を要求し続けているバンハ公爵家のヌオリとその仲間であった。あの日以来、宣言通りにシャンタル宮へ滞在し、王宮と神殿を日に何度も訪ねている。


「あの者たちは何者でしょう」


 ヌオリと同じ部屋に滞在していたセウラー伯爵家のライネンがダルたちを気にかけてそう言う。


「多分月虹兵とかいう者たちだろう。あの部屋に案内された時に近くの部屋にいると説明された」

「ああ、そう言えばそうでしたね」


 ヌオリたちの担当となった客室係の侍女がそう言っていたのをライネンも思い出したようだ。


「まあ、どちらにしても取るに足らぬ者たちだ。月虹隊の隊長とかいう者は漁師だそうだしな」


 ヌオリは気にかける価値もなさそうにそう言って、後は黙って2人で神殿へと向かった。


 ダルの隣室と、そのさらに隣の2部屋がヌオリとその仲間に提供された前の宮の客室であった。

 トーヤやダル、昨夜ハリオが泊まったのと同じ造りの部屋にヌオリとライネンが2人で滞在し、その隣の2室、間の扉を開ければ4人が一緒に泊まれる造りの部屋にもう1つベッドを入れて5人が滞在している。その7人で交代して神殿と王宮を尋ねているのだ。


「また王宮衛士が嫌そうな顔するでしょうね」

「そうだな」


 ライネンの言葉にヌオリがニヤリと笑った。


「それが目的だからな、交代でそうして日に何回も押しかけたら、そのうち本当のことをうっかり口にする者も出てくるだろう」


 今も毎回「前王陛下がお会いしたくないとのことだ」と王宮衛士は伝えてくるが、明らかにその表情は変化している。当番の兵は交代しているので同じ者が出てくることの方が少ないのだが、申し送りの時にヌオリたちのことは伝えられているからだろう。


「そのうち、我々に近づいてくる者もあるはずだ。その者に手引きをさせて王宮へ入る。もしも噂通り本当に国王陛下が皇太子に害されているのなら、それを理由に皇太子を引きずり降ろし、その周辺の者も共犯として牢獄にぶち込んでやればいい。もしもご健在ならば我らこそ真に国王の味方とご説明申し上げ、元のように王座にお戻りいただき、忠臣としておそばに置いていただく」


 ヌオリはもうすでに自分たちの勝利を確信しているかのようにそう言う。


「ですが、そのためには陛下の消息を確かめなければなりません」

「分かっている。だからこそ仲間の一部に王都で噂の元を探らせているのだ。その出処(でどころ)の者こそが陛下の消息を知る者だろうからな」


 本人たちは事実を知らずにいるが、この推測は当たっていた。町に元王宮衛士たちを使って「現国王が父親である前国王を手にかけたらしい」とか「天が王の交代をお怒りである」などの噂を流させたのは神官長であり、その父親である前国王を軟禁されていた冬の宮から逃れさせ、匿っているのもまた神官長だ。

 偶然ではあるが、ヌオリたちは解答に近い場所まで近づいていると言える。


 ヌオリとライネンはそんな話をしながら一度神殿を通り過ぎ、王宮へ足を伸ばした。

 王宮の入り口に付くと、当番の王宮衛士が2人を見て、さすがに公爵家と伯爵家の後継者に露骨に嫌な顔はできないものの、ややこわばらせた顔で形式通りに対応をし、


「連日同じことを告げるのも申し訳のないことだが、前国王陛下への面会を申し入れる」

「前国王陛下への面会は全て断るようにとの通達です。お引取りください」


 今までと同じ応答を繰り返す。


「では、前国王陛下に手紙だけでも渡してはもらえないか」

「お手紙ですか」

 

 当番の一人がもう一人と視線を合わせ、


「一度上に聞いて参ります」


 そう言って席を外した。


 一人残った王宮衛士にヌオリは親しげに話しかける。


「役目とはいえ何度もすまないな」

「いえ」

「これを」


 ヌオリが懐から何かが入った絹の袋を取り出した。


「つまらない物だが気持ちばかりだ、受け取ってくれ」

「いえ、そのようなものは」

「よく分かっている。だが、君たちだとてつらいだろう」


 そう言って無理やりに袋を握らせると上からギュッと両手でその手を包み込んだ。


「だがこちらも必死なのだ。もしも、街の噂のように前国王陛下のお身の上に何事かが起こっているとしたら、それはこの国が誤った道を歩くということだ。そんなことを天がお許しになるだろうか」


 王宮衛士は困った顔でじっとそのまま止まったままでいる。


「もしも、もしもで構わない、君がこの国のためにできることがある、そう思ったなら、前の宮の客室を訪ねて来てほしい。我々はいつでも歓迎する。頼んだよ」


 そう言ってヌオリがさっと手を離したところに、さっきのもう一人の王宮衛士が戻ってきた。


「お手紙ならばお渡ししても構わないとのことです」

「そうか、助かった」


 そう言ってヌオリは濃い紺色の封蝋をした封筒を戻ってきた王宮衛士に渡した。


「できればお返事をいただきたいが、渡せるだけでも構わない。我らがどれほど前国王陛下のことを心配申し上げているのか、そのことだけでも知っていただけたら、それで構わないのだ」


 そう言ってヌオリとライネンは元来た方へ戻っていった。


 王宮衛士の手、それぞれに心付けと手紙を渡し終えて。

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