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黒のシャンタル 第三部 「シャンタリオの動乱」<連載中>  作者: 小椋夏己
第四章 第一節 最後のシャンタル
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12 親御様の夢

 全ては十八年前、「黒のシャンタル」のご誕生から始まった。ラーラ様がそのまま宮に残られ、カースの村長の姉である産婆も宮に入った。全ては「黒のシャンタル」の秘密を守るためであった。


「わしの姉が亡くなる前日にわしだけに話がある、そう言われて2人で話をした、そしてそう聞いた。マユリアと当代の親が同じ方である、とな。それでわしはお二人が実の『姉妹』であると思った。そしてそういうこともあるだろう、そう答えた。それに姉は何も言わず、お二人の両親の名前だけを告げた。そして翌日亡くなったんじゃ」


 カースの村長がトーヤの話に続けてそう言う。


「どうしてそんなことを言い残したのか、亡くなった後で気になってきた。もしかしてそれが原因で姉は宮に入ることになったんじゃないか、それほどの秘密なのか、どうして姉はそれをわしに告げてきた、そう思うともう居ても立っても居られなくなってきた。それで姉に聞いたその夫婦のことを調べることにした、若い職人夫婦と聞いていたのでそれを手がかりにな。だが見つけた時には王都から出ていった後で、どこに行ったのかは聞いても知る者はおらなんだ。ところが八年前、トーヤがある話を持ってきてな、それで思い出したその話をトーヤに話すことになったというわけじゃ」

「そういうことだ」


 トーヤが話を引き取る。


「俺は俺で当代の親、当時の親御様夫婦が逃亡していたという話を耳にした。この国の人間じゃない俺からすると、そりゃ子どもを取り上げられるなんて逃げてもしゃあねえ、そう思ったんだが、この国じゃあそれは普通じゃないらしい。親御様になるのは誇れること、逃げる親なんかいねえってことだった。だったらどうしてその夫婦は逃げたんだ? 気になってた。それで八年前の封鎖の前日だ、カースでじいさんに他の話を聞くついでに聞いたら、まあそういうことだった」


 元々は「黒のシャンタル」の話と、カースの出身で「忌むべき者」になったというルギの話を聞きに行ったのだ。


「話のついでみたいに親御様が逃げることがないなんてこと本当なのか、ってじいさんに聞いた。それまで話を聞いてたミーヤやダルなんかは何しろ交代をほぼ経験してないみたいなもんだからな。じいさんだったら何回も見てきてるからなんか聞けるんじゃねえかと思ったんだよ。そしたらとんでもない話が出てきた、もしかしたら今回の親御様も同じ人間じゃないか、ってな」

「ああ、もしかしたらと思った。それでトーヤにその話をしたんじゃ」

「さすがに3人続けて子ども取られるなんてなあ、そりゃ逃げるよなって思ったな」

「そりゃそうだよ!」


 ベルがつい口を出す。


「おまえは黙ってろって」

「ごめん!」


 すぐに兄が妹を止めて話が続く。


「ベルが言う通り、俺やアランたちが育った土地ではどんだけ貧乏でもな、子ども手放すなんてことは大方(おおかた)の親にとっちゃ悲劇なんだ。苦しい生活の中でもなんとか家族が離れずに一緒に食っていこうってがんばる。そうして、どうしてもどうしてもだめになったらその時初めて誰かが家を出るんだよ。けど、さすがに今度もってなったら、そら逃げてもしゃあねえわなとそう思った。その上にな、ミーヤのおじいさんって人から聞いた話がふいに浮かんできて、そんでもしかしたらと思って宮にいた次代様の父親って人に会って話をしたら、やっぱりその通りだった」

「わしはその話は知らなかったんじゃが、実はそのお父上がうちを訪ねてきたことがあった」

「なんだって?」

 

 トーヤも知らぬ話であった。


「おまえがいなくなった後じゃ、ダルが村に戻ってきてトーヤは役目でしばらく戻れない、そう聞いた割りとすぐのことじゃった、一人の男がわしを訪ねてきてな」

「ああ、そういやあったね」


 ナスタが思い出したようだ。


「じいちゃんを訪ねてくる人は結構多いけど、なんかあの人は気になった。家具職人って人だよね」

「そうじゃ」

「見たところは普通の人なのに、なんだろうね、なんてのか、何もかも諦めたような感じが気になった」

「そうじゃったな」


 そして村長を訪ねてきた家具職人のラデルはトーヤと話したことなどを説明し、


「トーヤさんのおっしゃる通り、カース近くに工房を借りてそこにいることにしました。もしも連絡があったらそれを伝えてほしい」


 それだけを伝えて帰っていったという。


「わしに言うたのは自分の妻が親御様であること、今は宮から戻って一緒にいること、トーヤと何を話したか詳しくは言わなんだが、そのことでもしかしたらと思えるようになった、そういうことじゃった」

「もしかしたらって何がだ」

「わしもその時にはよう分からなんだ。けどあれは、もしかしたら子どもを取り戻せるかも知れん、そういうことじゃったかも知れん」

「そうか……」


 ラデルもその妻も、諦めていたのだろう。子を授かっても授かっても神として取り上げられてしまう、子と一緒に暮らすというささやかな夢を叶えられることはなかろうとそう思っていたのだろう。


「トーヤが戻ってくる、待っててくれと言ったとうれしそうに言うておった。今もきっと親御様は宮でそう思っておられるのじゃろう。お父上もな」


 村長がトーヤをじっと見つめてそう言った。

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