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黒のシャンタル 第三部 「シャンタリオの動乱」<連載中>  作者: 小椋夏己
第四章 第一節 最後のシャンタル
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 5 穢れなき親御様

『マユリアがその身を人の世に与え、ラーラという人として生まれた時、わたくしには次のシャンタルの親の姿が見えました』


「ああ、言ってたな、なんか(けが)れなくてどうたらってやつな」


『その通りです』


「さっき言ってたマユリアの親ってことだよな」


『その通りです』


「ってことはだ……」


 トーヤがゆっくりと確かめるように続ける。


「それはラーラ様が生まれてすぐってことになるよな? ってことは、マユリアが生まれる十年前にその親が見えたってんだな」


『その通りです』


 光とトーヤの会話が続く。


 この空間に集められた時、その最初の時にこそ皆は混乱し驚きの声を上げるだけだったが、今はあえて黙って光とトーヤの会話を聞いている。


 おそらく、この先はとんでもない話が出てくるのだろう。これまでにも信じられないような事実がいくつも出てきている。そして信じられないそのことを知ることになった。

 なぜトーヤが、「助け手(たすけで)」がこの地に現れたのかを知り、シャンタルの継承が途絶えぬように女神がその身を人の世に捧げたことを知り、そしてその人となった女神の肉体を持つ方が宮にいらっしゃることを知った。


 そして何回も光が言っていること。


――時がない――


――気づかれる――


 ということ。


――違う空間にいる者たちをあの空間に呼び寄せることができる力を持つ者がそう言って恐れる者がいる――


 ということだ。


 その「誰か」か「何か」に気づかれてしまうと、もうここに来ることができなくなるかも知れない。まだまだ光から聞くことがある、知ることがある、そして伝えることもあるのかも知れない。

 そのためにもできるうちに早く話を終わらせることが重要になる。そのためにカースではできるだけトーヤと光に会話をしてもらい話を進めるとダル一家と決めていた。おそらく宮のアランたちもそう結論を出していたのだろう。もちろんそれは時に一人きりでここに飛ばされる可能性のあるリルにも伝えられていることだろう。


 そうして他の者が無言の中、トーヤと光の会話が続く。


「どんなやつらが見えた」


 トーヤが頓着(とんちゃく)ない口調で直線的に聞く。


「穢れないとか言われてもそんだけじゃどんなやつか分からんからな」


 トーヤの言葉に光が少し考えるように光ってから波動を送った。


『穢れない二名の姿、後に神の親となる一組の夫婦になる者の姿です』


「うん、それは分かった。そんでマユリアが、あの奇跡みたいにきれいな女神様が生まれたわけだよな。その十年前からもうその2人は夫婦になることを決められてた。そういうこったよな? で、どんなやつらだった」


 なぜか、トーヤがしきりにそこの部分を細く追求する。


『穢れない二名の者、それは、まだ幼い男女でした』


 ざわりと声にならない声が空間を揺らす。


「まだ幼いって、それって子どもってことだよな?」

 

 思わずベルがそう言って、急いで口を押さえる。トーヤに「いらんことは言うな」と前もって釘を刺されていたのだが、どうしても押さえ切れなかったようだ。


『そうです。幼い、まだこの世の穢れを知らぬ一組の男女、長じて結ばれることを定められた運命の2人、その時はまだ3歳の幼子(おさなご)でした』


 また空気がざわりと揺れる。


「そりゃまあ、そんだけガキだったら穢れることなんてまだ全然知らんわな」


 トーヤがからかうように、そして皮肉を含ませるようにそう言って笑った。


「んで、十年後、本当にその2人は夫婦になって、そんでマユリアが無事生まれたってことだな。ってことは、親御様はその時13歳か」


『その通りです』


「この国じゃ13歳から結婚できるってことだから、まあおかしなことではねえけど、それにしても早かったもんだ。よく決められたように結婚したよな、しかし」


『この二名はほぼ同じ日の同じ時に生まれました。そしてその親も懇意(こんい)の仲、父親同士が同じ職業を持ち、母親同士も友として親しく交わっている家庭に生まれたのです」


「へえ、幼なじみ、なんてもんじゃねえな、そんだけの間柄ってのは。そうか、だからあんたが言う通りに無事にくっつけた。ずっと一緒にいたようなもんだもんな」


『その通りです。文字通り運命の2人でした』


「あれかな」


 トーヤがふっと思い出したように言う。


「今以外、過去も未来もいっしょくた、みたいにも言ってたなあ、あんた」


 もしもトーヤではなくルークがあの嵐の中で生き残った時には、二千年前の託宣は違った形になった、そう言った時にそう言われたのだ。


「ってことはだ、言い方を変えればその2人から生まれてくるって決まったから、そんであんたにもまだ小さいその2人が見えたってことか?」


『その通りです』


「なんでその2人が選ばれたか、あんたにも分かんねえの?」


『それは』

 

 光が少し戸惑うように瞬き、そうしてゆっくりと続けた。


『その2人以外に、もうシャンタルの親になれる者がいなかったのです』


「それはどういうことだ? その時にはその2人しか、まだオムツもはずれてねえようなガキ2人しか親御様候補がいなかった、そういうことか?」


『いいえ、もうこの後は誰もシャンタルの親たる者は生まれてこないということです』


 光が弱く弱く、悲しい涙を流すように揺れていた。

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