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 9 噂の目的

「アーリン?」

 

 黙ったままのアーリンにダルが話を(うなが)すようにするが、


「あ、あ、あの、あ、俺……」


 と、言葉にならない。まるで魔女に睨まれた生贄のように恐れ(おのの)いてるような感じだ。


「す、すみません!」


 と、あまりの様子にさすがにダルも慌てるが、キリエの方は、


「ゆっくりと落ち着いて話すように」


 と全く動じることがない。まあ、長年の間にこういう反応には慣れているのだろう。


 アーリンはダルに渡された陶器のカップでお茶を一口飲み、少し落ち着いたようで、やっと話を始める。


「あ、あの、僕、いや、俺、あの私がですね」


 まだやや声が裏返っているが、どうにか話しはできているようだ。


「た、隊長に言われて街の人たちに話を聞いてきましたところ、さっき隊長が言ったようにああいうことをですね」


 敬語も何もめちゃくちゃな話し方ではあるが、キリエは表情を変えずに聞いている。


「あの、聞きまして、その」

「その聞いたことの部分をどう聞いたか言ってください」

「はい!」


 アーリンは言われてしゅっと背筋を伸ばした。


「私が話をしている人たちに聞いたところ、王宮から前王様がいなくなったのではなく、新しい国王様が亡き者にしたのだ。それを隠すためにいなくなったと嘘の話を流しているのだ、そういう話でした!」


 しっかりと受け答えはしたものの、ダルがした報告とさほど内容に変わりはなかった。


「それは聞きました。その噂はどこから出たものか、誰がそのような話をしていたのか、他に分かることはなかったのですか」

「はい!」


 お返事だけはいい。


「アーリン落ち着いて。俺に話してくれたことを言えばいいだけだから」

「はい!」


 さすがにダルが助け舟を出す。


「まず、私が聞いた相手ですが、見たことのある男でした」

「なんですって?」

「はい!」


 キリエが何か言うと「はい!」としか答えられないのかのようだ。


「あの、前に隊長に宮へ連れていけとからんでいた男でした。あの時は私は離れた場所からその事を見てましたので、私が隊長の連れだとは気がついていなかったみたいです。聞いた話だがと周囲の人にそういうことを言っていましたが、誰かが誰に聞いたと言ったところ、知り合いに王宮の衛士がいる、その男が言っていたと言っていました」


 一息にやっとそう言い終えると、ようやく肩の力が抜けてきたのか、少し顔つきが元に戻った。


「そうなのですか?」


 キリエがダルに確認する。


「いえ、それが、私がその話を聞いて話の輪に入ろうとしたら、どうもこちらに気がついたようで、いきなりいなくなってしまったとか。なので私は確認はしておりません」


 キリエがほとんど表情なくダルに視線を向ける。


 ダルもミーヤももう長い間のつきあいで、なんとなくキリエの言いたいことが分かった気がした。もちろん、アーリンには相変わらず冷たい鉄のようにしか見えてはいなかったが。


「では、その噂は以前の噂の出どころと同じ可能性が高い、そういうことですね」

「おそらくは」


 やはり思った通りのことだった、キリエもそう思ったようだ。


「前の噂は元国王陛下のせいで天変地異が起きている、なぜなら国王の即位を天がお認めになられていないからだ、そういう話でしたね」

「はい」

「そして今回は実の父を亡き者にしたらしいという噂。これは、どう受け止めればいいと思いますか」

「はい」


 ダルがキリエをしっかりと見ながら答える。


「前に私に詰め寄ってきた時に言っていたのは、そのことを伝えたいから宮へ連れて行け、ということでした。ですが、今回は逃げました。もしも目的が同じなら、私を見つけたらやはり同じような要求をしてくると思うのですが、そうではなかった。ということは、内容は似たようなものでも、その目的は違うのかと」

「そうですね」


 2人の結論は同じだったようだ。


「他に何か分かったことはなかったですか」

「は、はい!」


 アーリンがまた元気に返事をしてキリエの質問に答える。


「わ、私が本当のことかと聞いたところ、間違いない、王宮が封鎖されているのがその証拠だと。そして宮も封鎖しているが、それは王宮が宮に本当のことを知られないようにそう命じたのだ、そう言っていました」

「王宮からの(めい)で宮が封鎖しているとその者は申したのですね」

「はい!」


 アーリンの答えにキリエが顔をしかめる。アーリンには分からなかったかも知れないが、ダルとミーヤにはそれが分かった。


 ダルは一昨日(おととい)宮に来て初めて封鎖のことを知った。だが、その理由についてはミーヤたちに聞くまで知らなかった。警護隊隊長のルギも、理由は話さずに当番の衛士に命じてダルを通しただけで、特に理由は話さなかった。

 ということは、一般の人間が神殿に行こうとして門前払いされたとしても、その封鎖の理由が王宮からのものだと知ることはないはずだ。


「アーリン」

「は、はい!」

「よく調べてくれました、これからも月虹隊の一員として務めに励んでください、頼みましたよ」

「は、はい! ありがとうございます!」


 アーリンは鋼鉄の侍女頭にほめてもらったことで恐縮し、まるでダルのように深く深く、床につきそうなほどおじぎをした。

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