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黒のシャンタル 第三部 「シャンタリオの動乱」<連載中>  作者: 小椋夏己
第三章 第一節 カースより始まる
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 5 第一の可能性

「もしかして、これ、神官長たちの仕業(しわざ)とか考えてたりしてます?」

「その可能性もないことはないと思っている」

「話としては、別勢力の仕業と考えるのが一番自然なんだけどなあ」


 アランがルギにそう言う。


「そうだな、普通ならそれが一番ありえる話だ」


 この国の者ではない2人の意見は同じようだ。


「一番単純に考えると、前国王に失脚してもらっては困る貴族たちの仕業ってのだけど、そういうことしそうな人って誰か浮かびます?」


 アランの問いにキリエとルギが顔を見合わせる。


「困る方なら何人かは浮かびますが、その方たちの中で誰が表立ってと考えると、特に誰ということは」

「俺もそうだ」

「なるほど」


 アランがそうだろうなという顔でディレンに視線をやると、


「あいつが言ってた通りだな」


 と、ディレンも(うなず)く。


 女神に守られ、二千年を安寧のうちに過ごしていたこの国の民は、自ら何かをやる、という力に欠けている部分がある。基本、受け身な者が多い。


「中にはそうじゃないやつもいるんだろうけど、でもなあ、王様の無理やりの交代、なんてのをどうこうってできそうなやつ、聞く限りじゃそうそうなさそうなんだよなあ」


 アランの言葉にディレンも頷く。


「けどまあ、俺たちはそのへんのこと、そこまで詳しく知ってるわけじゃない。だから、これは一つの可能性として、前国王派が権力を取り戻すためにやったかも知れない、としていいんじゃないか」

「そうですね、そのへんのことは隊長、色々調べてみてください。貴族たちの中で、どうやっても前の王様に戻ってもらってもう一度自分たちが真ん中に戻りたい、そのために新国王、ってかそいつらから見たら生意気な若造の皇太子をどうにかしてやろうって、そう動きそうなのがいるかどうか」

「分かった、調べてみよう」


 ルギがアランの言葉に素直にそう答える。


「そいつらが新国王の勢力に立ち向かうには力が足りない、それで民を(あお)って宮を動かし、上から命令してもらおう、もしくは暴動でも起こさせて味方に取り込もうとしてる。それがまず第一の可能性、ってことでいいですかね?」

「いいんじゃないか」

「それで宮が動く可能性ってあります?」


 今度はアランがキリエに聞く。


「それはつまり、シャンタルかマユリアがそのような(めい)を下す可能性があるか、ということですか?」

「そうなりますね」


 アランがそう言って頭をかく。


「ありえません」


 キリエがきっぱりと言う。


「宮から民に何かを伝えるのは託宣のみです」

「ですよねえ。けど、マユリアから色々と命が下ることはありますよね?」


 アランが今度はルギに対して聞く。


「たとえば八年前、ルギ隊長にトーヤが洞窟を見つけられるかどうか見張れって、マユリアから命令がありましたよね」

「あった」


 ルギが認める。


「それって、マユリアが考えて命令してるってことじゃないんですか?」

「その前提としてあの託宣があった」

「あいつを湖に沈める、それをトーヤが助けるってやつですよね」

「そうだ。すべては先代をお助けするため、そのためにマユリアがお考えになられたことだ」

「それはそうなんですが、それって具体的に天だか神様だかが、隊長にトーヤを見張らせろってマユリアに命令すたわけじゃなく、託宣から考えてマユリアが隊長に命令した、ってことになりますよね?」

「それは……」


 ルギが少し考え込む。

 言われてみれば確かにそうだとしか言えなかった。

 

「もしかしたら、マユリアはあそこはそのための洞窟だと知っていたかも知れない。シャンタルを湖から助けだしたらあそこの洞窟を通って逃げると判断した。だけど、それはさらに上からマユリアにあそこを見張れって命令されたわけじゃない」


 アランがきっぱりと言う。


「マユリアたちは、運命たらなんたらでトーヤにあそこの存在を教えるわけにはいかない。けど、なんとかして道を見つけてもらいたい。それで色々手を尽くした上で隊長に見張れと命じた。そうしたらトーヤが見つけてホッとした、そんな感じですよね」

「そうだ」


 ルギは認めるしかない。


「だったら今回も、今度の交代を無事済ませるためには新国王の即位は間違いだ、マユリアがそう判断して命を下す可能性もあるんじゃないんですか?」

「ありえません」

 

 キリエが即座に否定する。


「でもマユリアがそう判断したら、そう命を下す可能性はある。違いますか? キリエさんはマユリアがどうやってその命を下そうと考えたとか、知りませんよね?」

「それは」


 キリエにも返答ができない。

 それはその通りだからだ。


 キリエは侍女として、侍女頭としてずっと(あるじ)に仕えてはきたが、その命がどのように下されているか、その経過を知ろうと考えたこともなかった。


「つまり、そういうことなんですよ」


 キリエもルギもこの国の人間である。この国の人間には考えられないことだが、この国の人間ではないが故に、アランやディレンにはそのような可能性も思いつける。


「この民の声を届けたら、マユリアからそんな命が下る可能性はありますか?」


 キリエにもルギにも答えられない。


「もしもマユリアがそう判断して命じたら、前国王が王座に戻る可能性はあるんじゃないかと俺には思えました」


 アランが断言する。

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