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13 神の親

「それって……」


 シャンタルが困った顔のまま、困って言葉を続けられずそうとだけ言う。


「ええ、神殿からのお迎えが来たんです。神官二名と衛士二名、見た瞬間分かりましたよ、次代様がここにいるんだ、それを告げに来たのだと。何しろ以前に経験したことですからね」


 ラデルの表情からはどう思っているのかは分からない。


「ここは当代の家であり、次代様の家でもある。ですから不思議ではないんですよ」

「そう……」


 シャンタルがやっとのようにそれとだけ答えた。


「まあそういうこった」


 トーヤもさらりとそう答える。


「俺がラデルさんに色々と頼んだのはここに来てからじゃない。八年前にすでに話はしてあった」


 トーヤが説明を続ける。


「もしも、ラデルさんが俺たちに力を貸したくない、巻き込まれたくないと思ってたらミーヤの故郷にでも行ってただろうが、力を貸してくれるつもりがあるならリュセルスに残ってくれてるだろう、そう思って探したらいたんだな、これが」


 いたずらっぽくそう言ってニヤリと笑う。


「多分助けてはもらえんじゃねえかなと思ってたが、見つけた時はうれしかったな」

「なんだよそれ〜だったらそう言っといてくれよな!」


 ベルがほおっと肩の力を抜きながら、それでもトーヤを睨むのだけは忘れずそう言った。


「まあ、確実になるまでは言えなかったってのと、宮の中だけで済むんならそうしたかったしな」

「宮ん中だけか」


 ベルがむうっと口を尖らせて言う。


「その宮をおんだされてさ、そんでここに逃げ隠れして、この(あと)どうするつもりなんだよ?」

「そりゃおまえ、また宮ん中に忍び込むしかねえだろうが」

「忍び込むって、どうやってさ」

「そりゃまあ、色々手があんだよ。そのためにもここがうってつけってことでな」

「わけわかんねえ!」


 不足そうにベルが口癖を口にする。


「忍び込んでも見つかって捕まったらどうすんだ? もうトーヤの正体はばれちまってるし、おれらのことだって奥様と侍女なんて思ってもらえねえぞ? シャンタルの正体がばれたらそれこそ」


 おぞぞっと身を震わせる。


「まあ、そのへんはうまくやるさ。とりあえず今日はここでゆっくりさせてもらおう。なんもかんも明日からだ、とにかく今は休め。お世話になります」

「いえ」


 トーヤの言葉にラデルが軽く頭を下げて短く答えた。


「部屋はどこでも自由に使ってくださって結構ですから。また後で食事をお持ちしますよ」

「あの、おれ手伝います!」


 急いでベルがそう言う。

 ベルにはまだ他にもラデルに聞きたいことがあった。そのために近くに行きたかったのだ。


「おう、手伝ってこい。俺はちょっと休む。アランとシャンタルはどうする」

「ああ、俺も休ませてもらう」

「私は」


 シャンタルは少し考えるようにしていたが、


「トーヤたちとここにいるよ」


 何を考えているのかそう答えた。


「そうか」


 トーヤもそうとだけ答えた。


 


 ベルはラデルについて階下へ降りた。

 ラデルは黙って階下の作業部屋へ入ると、黙って付いてくるベルを振り返った。


「あの」


 ベルが思い切ったようにそう声をかけた。


「なんです?」

「あの、全部知ってるって、その、何を知ってるんです?」


 ラデルはベルの目をじっと見て、


「全部です。おそらく、あなた方がトーヤさんから聞いたこと全部」


 きっぱりとそう言った。


「全部……」

「ええ」

「えっと」


 ベルはどう言っていいのか言葉を探してしばらくもじもじしていたが、やがてラデルの反応を伺いながら口を開いた。


「シャンタルのこと、黒の、シャンタルのこと、どう思いました?」

「どう……」


 ラデルは言葉を探していたが、


「大変な運命の元に生まれてこられたのだと思いましたよ」

「大変な運命?」

「ええ、シャンタルの親に生まれるのも結構大変なんですよ」


 ラデルはそう言って、ベルの気持ちを和らげるかのように、冗談口で軽く笑って見せた。


「ですが、トーヤさんの話を聞いて、その本人はもっと大変なのだとあらためて思いました。ましてや常ならぬ黒のシャンタルの運命は言うまでもない。ですからトーヤさんが望むことを手伝う、手伝いたい、そう思ったんです」

「そうなんですか」


 ベルはラデルが心からシャンタルとその仲間たちに力を貸そうと思っていることを知り、やっとホッとした顔になる。


「おれ、シャンタルのこと大好きなんです。おれのたったひとりのダチなんです」

「ダチですか」


 ラデルが微笑ましそうに顔を緩ませた。


「おれ、おれと兄貴、もうちょっとで死ぬとこだったんです。それをシャンタルとトーヤに助けてもらって、そんで一緒にいるようになりました。家族なんです」

「家族ですか」

「多分」

「多分」


 ラデルがますます微笑ましそうに頬を緩める。

 

「だから、だから、あの……あの、ありがとうございます!」


 ベルがばさっと深く頭を下げた。


「お礼を言われるようなことじゃないですよ、私の家族のことでもありますからね」


 当代シャンタルの父親は、そう言って濃茶の髪の少女の手を取り、


「私こそありがとうございます、感謝しています」


 ベルの目をじっと見つめ、またふっと笑うと、


「さあ、食事の支度を手伝ってください。お腹すいたでしょ?」


 そう言った。

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