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18 アランの身の上語り

「命を助けられた?」

「あれ、言ってませんでした? 確かマユリアには説明したと思うんですけど、おたくらには言ってませんでしたっけ?」

「聞いてはいないな」


 ルギがそう答える。

 確かにルギもきちんと話を聞いたことはなかった。


「まあ、手っ取り早く説明したいから、ちょっと、誰でもいいから俺の服、左の腹のところめくってもらえません?」


 何をする気だとボーナムとゼトがルギに視線を送るが、


「言う通りにしてやれ」


 ルギにそう言われてゼトがアランに近づいてきた。


「妙な真似はするなよ」

「しませんよ、そんなこと。縛られてなかったら自分で見せるんすけどね」


 そう言ってゼトに上着の裾をズボンから出させ、左脇にある大きな傷を見せる。


「これは……」

「すごい傷でしょ?」


 そう言って身を(ひね)り、ルギやボーナム、それから他の衛士たちにも見えるようにする。


「俺と妹は戦で家も家族もなくしましてね。兄と3人で戦場稼ぎ、って分かります?」


 アランの言葉にボーナムもゼトも首を横に振る。


「トーヤから少し聞いたことはある」

 

 ルギだけがそう答えた。


「少しでも聞いてたらちょっとはどういうのか分かりますかね。まあ言ってみれば戦で何もかもなくして行くところがなくなった子どもが、戦場に落ちてる物を拾って売って、そうやって生きていくってのが戦場稼ぎです。そもそも戦がないこの国じゃ想像もできないでしょう?」

「そんなことが……」


 ゼトが絶句したようにつぶやいた。


「そんで兄弟3人でなんとか生きてたんですが、兄が傭兵になった後、戦で亡くなりましてね。その後、俺も傭兵になったけど未熟で腕もなくて、ケガをしたらその傷が腹の中で膿んできて、もうちょっとで死ぬところを助けてもらったってわけですよ。あ、もうしまってもらっていいですか?」


 言われてゼトが慌ててアランの服を直した。


「すいません」

「いや……」


 アランが礼を言い、ゼトは元の椅子に座り直し、また記録をとる姿勢に戻る。


「命を助けられたというのは分かった。ではトーヤとはどこで知り合った?」

「あれ、それ必要です?」

 

 アランが笑いながらボーナムにそう聞く。


「その話が出てしまったからな。おまえが言う通り、なぜトーヤがそうまでしてこの国に戻ったか、そのあたりを知るとキリエ様の事件とも関わりがあるかどうか分かるかも知れない」

「なるほどね」


 アランがわざとくすくすと笑いながらそう言うと、ゼトのこめかみに青筋が浮かんだようだった。


「まあ、そんでなんかの役に立つなら俺も知りたいこと分かるかも知れないな。いいですよ、話します。言った通り知り合ったのはある戦場の端っこです。傷が痛んで熱が出て、妹と二人で少し休める場所まで移動して、そこでとうとう俺は意識を失ってしまった。そこに妹が二人を連れて来てくれたってわけです。場所は言っても分かんないでしょうが、それが知り合った場所です。そんでいいですか?」


 そうしてその続きにアランが出会った時のことを軽くまとめて語った。

 嘘は言わない。

 ただ、シャンタルを「エリス様と呼ばれている方」と言い換えてはいる。


「というわけで、意識を取り戻したらどろどろの戦場の片隅で寝ていたはずが、身もきれいに清められてて、上等とはいかないまでも一応屋根のある宿のベッドの上にいた、というわけです。意識がなかった間のことは妹から聞いた話になりますけどね」


 ゼトが黙ったまま、その壮絶な経験を記録にとっている。

 ルギもボーナムも、他の衛士たちも同じく口を開くことはない。


「それで、トーヤは俺と妹に、ケガが治ったらどこかで落ち着いて普通の生活をしろって言ったんですが、俺はトーヤのようになりたいと思って弟子にしてくれと言って説得しました。そしたら弟子にはできないが仲間になるならいいと。ということで、その後は一緒に行動することになりました。その先にこっちに来るって話があったもんで、妹と相談して付いてくることにしたんですよ」


 アランの話には筋が通っていた。

 

「言っておきますが、トーヤはどうするか俺と妹で決めろって言ったんですよ。だから、来ないってこともできた。無理に連れて来られたわけでもなんでもない。俺と妹で二人に付いてくるって決めた。だからこの国に来たことに後悔はない。けど、やっぱりわけわからんことはなんでか知りたいと思った。だからここに戻った。そんでいいですか?」


 アランの説明に誰も返事をせず沈黙が続く。


「えっと、黙ってられても困るんすけど、誰かなんか言ってくれます?」

「その後の三年はどうしていた」

「え?」


 ルギがふいに口を開く。


「助けられた後の三年だ」

「いや、だからトーヤたちと一緒に」

「妹はエリス様に付いて侍女になったのだろう。なら三年ずっと一緒はないだろう」


 ルギはエリス様のことを知っている。知っていてアランを困らせるか、もしくは試すつもりでそう聞いているのだろう。


「そのへんは企業秘密ですよ」


 アランが意に介さぬようににやりと笑ってそう言う。


「まあエリス様もそうやって戦場で人助けされてたので、普通のあそこらへんの奥さまとはちょっと違いますしね。あんまりそのへんは話して差し上げない方がいいでしょ?」

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