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折れた剣と竜の鉤爪

 魔法の習得は、使えるレベルに至るまでの難易度別に等級で振り分けられる。


 ほとんどの魔法使いが難なく扱える生活魔法は第六級。

 生活魔法の延長で、ほとんど規模が大きくなっただけの魔法で第五級。


 遠距離攻撃となりうる魔法が分類されるのは、その次、第四級魔法からである。


 第四級とは、魔法に指向性を持たせる技術を使った第五魔法という位置付けだ。


 具体的な言葉にすれば放射である。制御を離れた魔法は、直前に持たせた指向性の強弱のコントロールによって、その速度、威力が変化する。


 代表的なものが、ボール技である。イメージのしやすい球体の形を保った魔法が、指定した方向へ向かって、制御から離れるのだ。


 魔法使いと呼べるレベルとなる入門魔法とまで言われている。


 これは簡単なものだ。まだ

 初等教育を受けていない魔法使いの家系の子供たちでも簡単に出来てしまうレベルだ。習得期間は短い。センスさえあれば一発で覚えてしまうだろう。


 だが、これでは通用しない。


 吸魔水晶によって、第三級――質量体化したレベルのものならほとんど無効化してしまうからだ。


 魔力の吸収された第三級魔法はたちまち質量を失って、的を破壊するだけの威力を持たなくなる。


 だから、受かるために教えるとするならば、第ニ級魔法――俗に上級魔法と呼ばれる高密度化された放出系の魔法だ。


 が、これがそもそも現実的ではない。


 第四級からは、その習得期間が一気に伸びてしまう。標的破壊に挑むまでの教育期間が六年――そのうちの五年の歳月を、ほとんどの生徒がこの第四級魔法の取得のために研鑽を積むのだ。


 いくら才能があろうとも、この魔法を一度にできた人間を聞いたことがない。学園長――賢者クラウスであろうと、完全な習得に半年はかけたと聞いたこともある。



「もう一度聞くけど、レオ君は強化魔法くらいしか使ったことないんだよね?」


「うす。ぶっちゃければ強化魔法?も昨日なんとなくやったらできたってだけで、正直使えるか分かんないです」


「僕はいったい、なんの試練を与えられているんだ」



 もう諦めていいだろうか。そんな弱音がイーヤの頭に過ってしまうが、肝心のレオが諦めている様子がない。

 別に、そもそも魔法が使えない方が悪いため、彼のお願いを律儀に受け入れる必要はないのだが、存外に、イーヤも諦めの悪い子が嫌いではなかったのだ。


「もういっそのこと学園長を呼んで解決してもらって――」


 そう自分で言って、思い出した。

 学園長がレオをスカウトして、転移で一度帰ってきた時のことだ。


 クラウスはレオの魔法について話したことがある。

 剣が好きで魔法が全くの素人。周回遅れだが、自身を超えるだろう才能の持ち主であること。そして、クラウスが見たレオの魔法の未来のことを。


『イーヤ君、例の少年だが実に面白かったよ』

『全く魔法がなっていない。ただの強化も碌に出来ずに失敗(・・)して、見てられないくらいの才能の無駄さ』

『彼は、剣聖の言う通り道を間違えている。おそらく他の子と同じように初等教育から魔法の道を選んでいたなら、すでに僕と並ぶ傑物になっていただろうね』


 才能を知らないために開花できない人間は沢山いる。

 ただ、クラウスを上回るだろう才能はないと思っていた。だから信じられない思いであったが、聞く限りだと全く凄くないと思ってしまうことに驚いた。


 何が凄くないと思わせるのか――すぐに思い当たる。

 クラウスなら、強化くらい教えもなく魔法を使いこなすからだ。

 だから、強化すら失敗するというレオのどこが、クラウスを超える才能と言わしめるのか意味が分からなかった。


『えっと、ただ魔力量が多いってだけですか? だったら学園長より凄い才能だなんて思えないですけど』


 魔力は触媒さえあれば外部から取り入れることができる。

 ただ容量が大きいだけなら、確かに有益な才能だが、イコールクラウスを上回る才能と結び付けられない。


 だから聞いた。


『結局、その子の何が凄いんですか?』


 クラウスは言った。


『彼の剣に、竜を見た』


 その後、すぐに転移でレオの元へ帰ったため、それ以上は聞くことは出来なかった。

 回想をやめてイーヤは、レオの腰に下げた折れた剣を見る。


「竜の宿る剣……」


 とてもそうは見えなかった。

 どこにでもありそうな、ただの剣だ。

 より上等なものなどいくらでもあるだろう。

 だが、クラウスは言ったのだ。


 強化すら失敗したというレオの剣に、竜を見たのだと。


 もし本当に、彼の剣が竜になるのなら、嗚呼、確かに特一級の魔法だろう。クラウスも及ばない神の領域だ。


 竜の鉤爪は、あらゆるものを切り裂く。

 たとえそれがアダマンタイトであろうと紙のように易々と破り、それはすでに、事象の次元にまで及んでいる。


 もしそれが、本当なのだとしたら?

 彼の折れた剣がクラウスの言ったとおり、竜が宿っているとすれば――。


 繋がった。


「よし」


 面白い。

 その才能を開花させれば、どれだけの魔物を、障害となる『悪』を切り裂けるだろうか。


「ひとつ、思いついたことがある」


 イーヤ・シンバルはレオに向けて、そう告げた。

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