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レオの実力


「先生、オレ、遠距離魔法使ったことがないんですけど」


「えぇ……」


 なんだコイツ、みたいな目を向けられても、オレは萎縮したりしない。

 そもそも、目指している場所がまったく違ったからだ。

 こうして魔法学園に編入しようとしているのも、それが手段の一つとして学ぶ価値があると考えたからで、本来のオレは剣士だ。つまり仕方がない。


 開き直ってオレは、イーヤ先生に物乞いのような目を向ける。ちなみに、なにかいい魔法があれば教えて、と念じている。


 その思いが届いたのか、イーヤ先生は深く息をつくとしょうがないとでも言わんばかりに問いかけてきた。


「使ったことがある魔法は?」


「生活魔法」


「……他には?」


「なんか変なの、剣を強化するやつ」


「うん、強化だね」


「それだけ」


「まじで?」


「まじっす」


「ははは。マジかよ」



 以上、オレの魔法歴の会話である。

 両親ともに魔法が使える家系だったので、生活魔法についてはもはや身についたものだ。

 水の節約を行う水操作。炙るのに便利な点火。洗濯物がすぐに乾く風調整。家庭菜園が楽になる土弄り。

 いずれも日常を送る上で大活躍な技たちだった。


「とりあえず生活魔法は当てにならないからどうしようか」


 だが、残酷にも戦力外通告するイーヤ先生。

 だとすれば残るのは強化する方法だが、実はあれ、なんか勝手に出ちゃった感があってまた出来るのか不安なんだが。


 しかし、それを言ってしまえばオレに残された魔法はなく、カエレと言われて町へ帰ることになりかねない。


「ちなみに今からパッと覚えられそうな魔法とかありませんか?」


「舐め腐ってるなコイツ」


 極めて辛辣で当たり前な反応が返ってきた限りでは、流石にそう易々と習得できるほど甘くはないらしい。


「なんでこの子、騎士学校じゃなくて魔法学園(うち)に来たんだ」


「ほんとですよね。どうせならそっちにスカウトしてほしかったですよ」


「……クセが強いんだよこの子」


 イーヤ先生が何やら嘆いたが、オレには聞こえなかった。

 都合の悪い言葉は聞かなかったことにする主義だ。


「ちなみに近づいて破壊するってのはどうでしょう。ほら、魔法で強化された剣はほぼ魔法、みたいな理屈で」


「うん。魔法の利点を損ってるよね。魔法は基本的に射程距離の長さが一番のメリットになりえているんだ。剣でも間合いを上手く読んだ方が勝てるように、魔法は剣士のその数倍以上が間合いになる。つまり、常に有利な状況を生み出す動きが必要なんだ。接近戦闘能力は勿論必須だけど、広範囲高出力のメリットを崩してまですることじゃないね」


 諭すように言われて納得する。

 たしかに、剣士が魔法使いと対峙するときには、いかに間合いに入れ込むかが課題になってくる。そもそも正面から向かってくる魔法使いに間合いを作った剣士が遅れを取る道理がない。

 なるほど、遠距離魔法は有効だからこそ重宝されているわけである。


「てか本当になんで君、騎士学校に行かなかったんだい? 強化を使えるなら尚更、確かに潜在魔力的に惜しいけどそっちの方がやりやすいだろうに」


「オレんちそこまで裕福じゃないから。それにオレは剣術大会で優勝するつもりでやってきたからほんとに魔法は二の次で今までやってきたんだよ」


 それに、本人が魔法を使えなくても、サポート役の魔法使いがいれば関係なかった。昔はオレも兄ちゃんのためにと言って言い訳しながら魔法使いへのコンバートも考えたが、それでも夢を諦めきれずに剣を握った記憶がある。


「そうなんだ。ちなみに剣術大会には出たことあるの? たしか剣聖も君くらいの年齢で本戦出場して推薦枠を取ってたけど」


「ありますよ。もう三度くらい出場しました」


「え!? まさかその歳で本戦に……」


「もちろん、予選ですが」


「だ、だよね。びっくりした。でも凄いじゃないか。予選とはいえ毎年かなりの激戦だって聞くよ。ちなみに成績はどれくらいなんだい?」


「まだ勝つ時期ではないようで。今は一回戦敗退ですね」


「凄くない!」


 イーヤ先生の掌返しが炸裂した。


「君、なんでさっきから剣の方が良さげな雰囲気出してたのさ。剣をやってる割には線は細いし、聞く限りだと典型的な魔法使いタイプにしか見えないんだけど」


「憧れがあるんですよ。オレは昔から剣聖に憧れて剣を振ってきた。適性がどうとかじゃないんですよ」


「……羨ましいな。そうか、君にはもう目指すべき場所があるのか」


「はい! オレはここで、オレだけの剣の腕を磨くためにやってきました」


 学園長は言っていた。オレならばこの学園で学ぶことで、剣聖にも並ぶ剣手になれるだろうと。そのための修行をつけてもらえると約束してもらったのだ。


「いつかは兄ちゃんに、剣聖にだって届く英雄になるために、なんでもいいから魔法を教えてください! ぶっつけ本番だろうと構わない。何もせず終わるなんて、ありえない!」


 思いの丈をぶつけてたたみかけた。

 なんかそれっぽい雰囲気に無理やり変えた感が残ってしまうが、本当に何も教えられずに強制退場、なんてことなりたくなかったので仕方ない。


「はぁ、やれやれ。センスだけで通れるほど、この試験は甘くないんだけど……」


 そう言ってイーヤ先生は何やら考え込むようにして顎に手を当て目を瞑った。


 だいぶ失礼だったはずのオレのために考えてくれている。

 いい人だ。

 まるで――かつての剣聖を思い出す暖かさを持っている。


 この人は信頼できる。

 人を見る目は優れている方だと思っていたが、今更になってようやく、この人のことを見極めることができた。

※レオくんの人を見る目は普通です。自意識過剰なだけで、全くの根拠がありません。

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