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実技試験

「この時期に編入って正気ですか?」



 イーヤ・シンバの言葉だった。

 突然の外出ということで呼び出されたイーヤは、今から一人の少年をスカウトしに行くことを聞かされて目の前にいる人物を疑った。


 いま、一年生にとって一番大事な時期である。

 それは、どんな行事であろうとも、二年、三年生ならばすでにある程度の心構えができるが、「初めて」に挑む生徒たちは本来の実力以下で大変な目に遭うことがほぼほぼ確定していたからだ。

 さらにいえば、その行事で成績が不良と判断させられたら大幅に順位が変動して、それは卒業後に大きな影響を与えることとなる。だが同時に、成功を収めれば未来は大きく開かれる。そんな一大イベントを前に緊張感を持つ生徒たちの中に、右も左も知らない生徒を放り込むなどおよそ正気の沙汰とは思えなかったのだ。



「来年からではダメだったんですか? 一年生とはいえ既にこの学園の授業スピードは他校とは比べ物にならない。ましてやその子、普通科なんですよね。その子の才能を潰してしまいませんか?」



 学園長の直々のスカウトとなれば、期待値は高いものとなる。いつかは噂が広まり、さらに重圧となってその生徒を苦しめるだろう。


 肩書きの重圧というものに、イーヤには理解があった。

 だからこそ、その言葉には強い意志が篭っていたし、意地でも件の少年のために、と思って進言した。


「イーヤ君の懸念は尤もな意見だと思う」


「なら」


「だがね、これは剣聖殿の意向なんだ」


 剣聖。いまの帝都で一番話題となっている少年が挙げられてイーヤは口を噤む。


「……つまり、コネだと?」


「まぁ、間違いではないだろう」


「そんな他人事みたいに」


 それでは、直々のスカウトとはいえ、期待はあまりできないかもしれない。いくら剣聖の推薦とはいえ、かの英雄は魔法についてはてんで素人だと聞いている。


 なら、なおさら受け入れることはできない。

 才能もないまま、学園長のスカウトによる編入。期待値が高く、重圧によって押し負けることが目に見えた光景だ。


「ならば条件があります」


「ほう? 興味深い。条件とは?」


「今日呼び出したということは、どうせ僕のクラスに入れるつもりなんでしょう? だとすれば、最低限の「資格」を示してもらわないとケジメがつかない」


「ふむ」


「試験は魔力測定、そして標的破壊の二つです。筆記は免除で構いませんが、最低限、僕のクラスに入れる以上は、この試験を受けてもらいたい」


「その二つにした理由は?」


「今からでも、間に合うのかを見たい。ここは、英雄が生まれる帝都一の魔法学園だ。もしも期待以下であれば、来年度一年生から入学ということにしてもらいます」


 イーヤの真剣な申し出に、学園長は破顔して、


「仕方ない。受け入れよう。それが英雄になれなかった者の言葉なら重く受け止めるべきだ」


 こうしてレオの編入試験が決まったのだ。







「君は普通科の生徒だったと聞いたけど、標的破壊の試験について聞いたことがあるかな?」


「いや、まったく。魔法嫌いだったんで。聞いたことがあったとしても忘れたんだと思います」


「そ、そっか。魔法が嫌いだったんだ」


 イーヤ先生は顔を引き攣らせたがすぐに咳払いをして持ち直し、説明を始めた。


「なら、軽く教えておくよ。一応公式には発表されてないんだろうけど、人伝に知れ渡ったこの学校独自の試験でね。入学試験の時も、みんな知った上で試験してるのが大半だから」


「ギアスで口封じとかしないんですか?」


 ギアスとは、約束事を強制履行させるポピュラーな魔法だ。効果は、互いが納得した上での約束を破ろうとすればペナルティが執行されるというもの。ペナルティは水晶の時のように魔力をごっそりと持っていかれる。そして、その魔力は契約者の元へと渡って知らされ霧散する。

 恐ろしいのが、このギアスという契約は、一度ペナルティが発生すると永遠と魔力を吸い上げてくるという点だ。一度ごっそり持っていかれた後は微量なのだが、それでも永遠と魂を抜かれるような不快感が残り、これを解除するには相手からの許しが必要となるのだ。


「ギアスもね、昔はしていたみたいなんだけど、掛ける側もある意味では契約によって縛られた状態になってるからね。うっかり口を滑らせてしまう人や、出来もしないのに契約裏をかこうとする人が後をたたなくて。度重なる通知とペナルティの解除のために訪問する人の相手で発狂したみたいで、今はやってないんだ」


 あー、そりゃあそうなるか。契約には対等な立場の人を立てなければならない。一方的に縛り付けるのは出来ないし、確か子どもの頃読んだ物語にはそうすることの出来る魔法もあったはずだが、禁呪指定されて今使える人はいないはず。


「ま、ギアスの話は置いとくとして、試験の話をしよう」


「はーい」


 イーヤ先生から教えてもらったのは、試験の詳細な内容についてだった。


 まず、はじめに、ドミノ並びにそびえ立つ大きな壁。

 これは第一関門で、単純に魔法によって潰しいけばいいらしい。ひび割れるだけでなく崩さなければいけなく、また、ドミノ倒ししようと高い位置だけ崩したら、次以降の関門で標的が見えないから注意する必要がある。


 この壁の奥にある第二関門は、3つの水晶の間にある二つの的の破壊だ。この水晶は魔力の吸収によって硬度を高めるもので、特に周囲の魔力を吸い取ることに特化した逸品なんだとか。中途半端な魔法攻撃だと、たとえ質量体を使ってもたちまち形を保てなくなるらしく、到底的を破壊することは叶わないんだとか。

 因みに、入学試験では、この関門を突破するのが最低ラインらしい。


 そして、最終関門。

 第二関門が終わると、第一関門があった場所に15枚の魔力障壁が出来るんだとか。

 これを全て破壊して、その先にある三つの水晶全てに魔法を当てることが出来たら満点らしい。

 もし水晶までたどり着けなくても破壊できた魔力障壁の数で成績がつけられるらしく、水晶までたどり着けるのはその学年でも特に優秀な人間――つまり、のちのこの学園のランカーになる人なんだとか。


 てか、これだけバレてるなら試験内容丸裸じゃん。


 それはともかく、燃えてくる話だが一つ問題が浮上する。


「先生、オレ、遠距離魔法使ったことがないんですけど」


「えぇ……」


 さて、オレは編入できるのだろうか。

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