編入試験
「キョロキョロとしすぎだ。その歳で迷子になりたいのか」
「な、ならねえって!」
おっさんが学園内に足を踏み入れてから、オレは少しだけ緊張をしているみたいだ。客観的にわかるぐらい、自分の挙動が不自然になる。
慣れない環境のせいでもあるが、一番はやはり周囲からの視線だ。
「なぁ、おっさん」
「いい加減礼儀を弁えろ。君は本当に剣聖と同じ環境で育ったのか?」
「に、兄ちゃんは関係ないだろっ。てか、なんて呼べばいいんだ?」
「そうだな、学園長と皆に言われるが君には特別にクラウス大先生と呼ぶことを許可しよう」
それはなんか嫌だ。
「じゃあ学園長、今どこに向かってるんだ?」
「ん? 言ってなかったか? ――と説明する前についてしまったようだ」
どうやら何か伝え忘れがあるみたいだ。何かしらの目的を持って辿り着いたのは、巨大な箱のような建物だった。
白塗りの壁には窓一つ見当たらず、意匠っ気のない無骨な外観だ。入り口も開けっ放しの両開き戸。
おっさん――学園長は少しの見学もさせるつもりはないようでサッサと通り抜けていく。多分、今通っているのがメイン通路で、たまに細別れしたような道ができているので、そこから施設内の部屋に行くのだろうか。
「さあ、着いたぞ。説明は彼に聞くといい。あとは任せるよ、イヤシンボ先生」
開けた場所に出たと思えば、そこには一人の教師がいた。
見た感じ、学園長よりも若く、優男っぽい印象を受ける。
「誰がイヤシンボですか。冗談でも人の名前で遊ぶのはやめてください。不謹慎です」
「確かにそうだが、君は嬉しがっていたじゃないか」
「昔と今は別なんですよぉ!」
「ははは。なら、私が紹介しようと思っていたが、自己紹介をしてもらおう」
気の置けない関係というやつか。
仲のいい先輩後輩の関係かもしれない。
優男の先生は学園長の言う通り自己紹介をするらしく、仕切り直しに咳払いを一つして自己紹介をした。
「君が今日編入予定のレオくんだね? 僕は試験監督をすることになった。イーヤ・シンバル。この試験で合格すれば君の担任教師になる者です。よろしくお願いします」
「あ、こちらこそよろしく……って、試験?」
なんか予想外の単語が出てきて思わず学園長の方を見る。
「は、え、オレって学園長の権限ですぐ入学できるって言ってなかったっけ」
学園長は、ははは、と感情のない笑いをあげて参ったとでも言いたげに両掌を上へ向け、首を振った。
「いや、実はそうするつもりだったんだが、連絡を入れたら無理だと断られてしまってね。せめて試験を受けさせてからだって言うものだから渋々応じたというわけだ」
「あんた権力あるのかないのかハッキリしろよ」
「まぁ、そういうわけだ。なに、心配することはない。君が合格すればいいだけのこと。問題ないだろう?」
いや、ありまくりだろ。
「そもそもオレ、魔法学園の試験なんて何やるか分からないんだけど。それに、魔法使ったことなんて数えるくらいしかないし」
「大丈夫大丈夫。さて、心配ごとは無くなったことだし、あとはイヤシンボくんに任せた。健闘を祈っているよ」
そう言って、オレが文句を言う暇も与えることもないまま文字通りその場から消えてしまった。
「逃げに転移使うなんてホント出鱈目なんですから……」
後にはイーヤ先生とオレが取り残され、仕方なく試験を受けることになったのだった。