魔王商店街のマネキン
「なんだかんだ言っても……魔王城内で一番のお洒落といえば、俺だな」
サイクロプトロールの自信はどこから出てくるのだろう。戦う時はほとんど上半身裸のくせに……。
まれに下半身も裸になり、片手で隠しながら戦うくせに――!
魔王城内の長い廊下を四天王が横一列になって歩くと、すれ違う他のモンスターは廊下の両端で立ち止まり、中央を大きく開ける。縦一列になって歩けば良いのだが……誰も一歩たりとも譲らないのだ。四天王どうしは意地の張り合いが大切なのだ。
「冗談にしては笑えないわ。一番のお洒落は、やっぱりわたしでしょ」
サッキュバスが長い髪を手でパサッと広げると、良い香りが辺りに漂う。
羨ましいぞ――長い髪。
「バーカ、魔王様と同じローブを着ている俺が一番お洒落なのさ」
「――それ、魔王様と同じローブなのか」
灰色じゃないか! 埃とカビでそんな色に変色してしまうのかと問いたい。ソーサラモナーがローブをパサッと広げると、目に見えない埃が周辺に飛散する。
「ヘックション!」
「ゴッホゴッホ、ちょっと、たまには洗濯しなさいよ! 不潔な男は嫌われるって前に言ったでしょ!」
「洗い替えを作れ!」
「仕方ないだろ。ローブはそう簡単に買えないのだ。それに、この匂いもだんだん癖になる。病みつきになるといい匂いに感じるのさ」
……やめてくれ。
なんだかんだ言っているが、結局のところ全身鎧姿の私が一番格好がいいのは言うまでもないだろう。
「お城を出たところの商店街で年末の大バーゲンセールやっているから、そこで魔王様にお似合いの服を探してみない?」
「おお、どうしたのだ、女子らしい発言!」
「さすがだぞサッキュバス」
「行こう。魔王城を出よう!」
「「おおー」」
四天王も……暇なのだ。
魔王城を出てすぐのところにある魔王商店街を四人でブラブラと歩いた。年末の魔王商店街は、普段にも増して賑わいを見せている。人混みの中を自転車に乗ったモンスターがしきりにベルを鳴らして走るのはやめて欲しいぞ。
「安いよ安いよ、干し肉が一キロたったの二千円だ!」
……なんの肉なのだろう。
「コーヒータダですよ。店内でお召し上がりください」
コーヒーがタダ? それを飲みながら店内を見て回らせる作戦か……素晴らしいぞ。
「ワインの試飲もありますよ」
「きゃ、試飲ですって、飲んじゃおうかしら」
「勤務中だぞ、サッキュバスよ」
小さな紙コップに注がれたワインを何杯も飲むなと言いたい。
試食コーナーに群がる子供ですら、もう少しお行儀がいい。
「献血にご協力ください!」
献血か……。この時期は血液が不足するらしい。
「協力してやりたいのは山々なのだが……」
……鎧の隙間から……針がさせないと断られた苦い経験がある。というか、モンスターの血がどれほど輸血できるのだろうか……。青やら赤やら緑やら……血というより、汁ならなんでもいいのではないだろうか。
流行りの服屋を何件か見て回るのだが、魔王様に似合いそうなナウでヤングな服は一つも見つからなかった。チェックのネルシャツも……似合わないだろうなあ……。
サッキュバスはどんどん自分の物を買い始めている。紙袋を他の四天王が持たされている。してやられた感が甚だしい。
「しかし、このマネキンの石像、よくできているなあ」
まるで生きている人間のようだ。
「そりゃそうよ、生きていた人間が石になったんだから」
「え?」
思わず触っていた手を引っ込めた。
この魔王商店街にあるすべてのマネキンが、石化させられた人間なのか――?
別にいいか。俺達はモンスターなのだから。
「しかし、こんなにたくさんの人間を……いったい誰が石にしたのだ」
「石にする魔法って、高度な禁呪文と聞いた事があるが」
「ああ。禁呪文『年を取ってもカッチカチ』はレベルの低いモンスターや若い魔法使いが簡単に使える呪文じゃない」
禁呪文のネーミングセンス……頭が悪いのがバレるぞと言いたい。逆に「年は若いのにフニャフニャ」とかもあるのだろうか……。
そっちの方が怖そうだ。
「石になっても元に戻る方法はあるんじゃないのか」
「戻る方法は二種類だ。禁呪文なら解除呪文で戻る。石化の呪いの場合は呪いを掛けたモンスターが死ねば呪いはすべて解ける仕組みだ」
さすがはソーサラモナーだ。魔法や呪いの事を熟知している。
「じゃあ、この石化した人間のマネキンは、解除呪文で戻るのか?」
「いや、それが戻らなかったんだよお」
口の先を尖らせて悔しそうに言う。
「可愛いマネキンを選りすぐって買って帰り、部屋に鍵を掛けてロープで縛ってから解除呪文を試してみたのだが、石のままでさあ……無駄な買い物をしてしまったぜ」
――発言が怖すぎるぞ!
魔族だからって何をやってもいい訳じゃない――!
ソーサラモナーの買った石像が……今どうなっているのかすっごく気になる……。
「つまり、これは禁呪文で石になった人間ではなく、呪われて石になったってことね」
「こんなに沢山の人間を石にできるといえば……あいつか」
「あいつね」
「あーあいつか」
「あー、あいつな。あいつ、こえーなー。あいつだけはどうしょうもないな」
……どいつか分からないが。相づちを打っておいた方がいいのだろう。
「……」
「メデューサよ」
「……知っていたさ」
メデューサだったのか――。だが、それなら知っている。四天王になる前に一度、後ろ姿を見たこともある。……いや、それ以上思い出すのはやめておこう。
「魔王城からずっと北の洞窟に何年も引きこもっているらしいわ」
「まだ生きているのか?」
「石像が石のままってことは、生きているんじゃない?」
「あの子は可愛いんだがなあ……」
「ああ、ちょっと苦手なタイプなんだよなあ」
ソーサラモナーとサイクロプトロールが苦手なタイプ? 女なら誰でもいいのかと思っていたぞ。
「ちょっと様子を見にいきましょうか」
「……」
みんなに嫌われているメデューサ。
数百年に一度、魔王城に来るのを……私は知っている……。
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