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四天王のセンス


 魔王城には二つの会議室がある。二階の大会議室と三階の小会議室だ。今日はどちらも「使用中」のため、やむなく別室で臨時会議を行うことにした。

 魔王城内には沢山の部屋がある。中には喫茶店や事務のできるジム。美容院や理髪店も数店舗入っている。

 冷え込みが厳しいため、今日は「炬燵(こたつ)の間」に四天王が集められた。


 大理石の冷え切った床。その中央に設けられた掘り炬燵は、長時間座っていると体が芯まで冷える。この部屋のコンセプトが理解に苦しむ。天井までも十メートルあり冷気が下りてくる。せっかくの掘り炬燵が台無しだ。


 同じコタツに四天王と魔王様の五人が入るのには少し無理がある。サイクロプトロールは体がでかく、ソーサラモナーは足が臭い。首から上が無いのに臭いのが分かるほどだ。

 四角い机の中央には丸いお盆にみかんが盛ってあり、それぞれが手に取ると皮を剥きながらダラダラどうでもいい会議が始まった。


 サッキュバスは大き目の真っ赤なセーターを羽織っている。もろに萌え袖で、指先を少しだけセーターから出してみかんを剥いているのが……けしからん!

 魔王様に賄賂でも受け取っているのだろうか。魔王様の勝ち誇った顔が……歯痒い。

「やだ、デュラハンったら、また胸元ばかり見ているの?」

 萌え袖でセーターの胸元を押さえるのが……腹立たしい。

「またと申すな。私はそんなものに興味はない」

「そうそう、デュラハンは女性用の胸が膨らんだ『鎧』に興味があるんだよな」

 ――!

 なぜ他人の秘密を……いや、他モンスターの秘密をペラペラと喋るのだソーサラモナーよ!

 首から上が無いのに、耳まで赤くなるではないか――!


「ええ! なによそれ、カッチカチじゃない?」

 サッキュバスの半ニヤケ視線が……煩い。

「バカ者! カッチカチではない!」

 いったいどこがカッチカチだというのか……はっ! 鎧か! 鎧の話ならカッチカチだ――! 金属製だから。

「人の好みをとやかくイジらないでくれたまえ」

 クスクスと笑いをこらえているサッキュバスが……超ムカつく。


「今日は卿らに聞きたいことがある。予のこれをデュラハンが萌え袖と申すのだが、それが何らかの迷惑行為に該当するのか」

 魔王様がまた両手をピーンと左右に広げる。やはり指先が少しだけ出ていて……見ようによっては萌え袖だ。

「まったく萌えませぬ。よってそれは萌え袖ではございませぬ」

「御召し物がよく似合っております」

「昨日と同じでしょ」

 みかんの皮が剥かれていく。小さくて硬いみかんは恐らく酸っぱい。

「卿らは萌えぬか? まったく萌えぬか?」

 残念そうな目をする魔王様……どっちだ!

「いや、そう言われれば……少しだけ萌えます!」

「微妙に萌えてきました!」

「うん。可愛いわ」

 四天王には……簡単に自分の意見を覆すスキルが備わっているようで……嘆かわしい。


「服装の乱れは風紀の乱れと以前魔王様はおっしゃいました。魔王城の土産屋で売っている『魔王こけし』を作る時、旋盤に袖が巻き込まれると労働災害になる恐れもあります。すなわち、腕より袖が長いローブをまとうのはルール違反にございます」

「ルール違反だと?」

 魔王様と同じような長い袖のローブを着ているソーサラモナーの手がピタリと止まった。

「お前こそ、いつも鎧じゃん」

 なにもなかったかのようにみかんをまた食べ始める。

「しかも金ピカの」

「金ピカで……何が悪い」

 高そうに見えるからよいではないか。

「ゴールドク□スかよ。冷や汗が出るぜ……古すぎて」

「なんだと――!」

 思わず立ち上がってしまう。私は騎士なのだ、聖闘士(セイント)ではない!

「ちょっと、立ち上がるとコタツ布団がめくれて寒いじゃないの」

「……すまない」

 渋々座り直して布団の乱れを直す……。私は几帳面な性格なのだ。カーペットなども端っこがめくれていたり、シワが入っていたりすると許せない性格なのだ。

「風呂だってそれで入ってるだろ」

 ――!


 なんだ今日の会議は……これでは私の吊し上げではないか――。


「ありえねーな」

「仕方がないだろう。この姿のモンスターなのだから」

 グールだってスケルトンだって、あの姿で風呂に入っているではないか――。たっぷり出汁が出ているぞ、きっと。

「きたねー」

「男子風呂って不潔ね」

「貴様ら……。この私がいつもいつも最後湯に入り、湯を抜いて亀の子タワシで洗っているのだぞ――」

 文句言うなと言ってやりたい――。

 ソーサラモナーには逆に、風呂くらい毎日……せめて週一回くらいは入れと言ってやりたい!

 ソーサラモナーはローブの洗い替えを持っていないのだ。洗濯する時にはランニングシャツとパンツ姿になる。夏はともかく、冬にはその姿で分厚いローブが乾くまで我慢しなくてはいけないらしいのだが……。

 魔法でなんとでもなるだろう――!

 冬を夏にされては敵わないが、禁呪文に「ドライ乾燥」くらいあるだろう――!

「あるにはあるが、急に乾燥なんかさせて縮んだらどうするんだ。高いんだぞ魔法使いのローブは」

「丁度いい大きさになるんじゃないのか?」

 袖がピッタリサイズになったら笑ってやろう。そして次には、魔王様のローブも洗濯してドライ乾燥してやろう。

「ローブが縮んだら、自分も小さくなればよいではないか」

 ――!

 まさかの服のサイズに自分のサイズを合わせる作戦? 魔王様や魔法使いにはそんな芸当ができるのか――。

「禁呪文に小さくなる魔法があったじゃろ」

 私は魔法が使えない。故に魔法についてはほとんどなにも知らない。ソーサラモナーが渋い顔で考え込む。

「……あることにはありますが、スプーン婆さんサイズまで小さくなります」

「ハッハッハ、なったらいいじゃないか」

 サイクロプトロールが笑っている。冷や汗が出る、古すぎて。スプーン婆さんって……手のひらサイズだったはずだ。もしもソーサラモナーがそんなに小さくなったら……一度、プチッと踏みつぶしてやりたいものだ……言わないけど。

「ヒールでプチッと踏み潰してあげるわ」

 ちゃんと言いたいことを口にするサッキュバス……。裏表がない性格なのはいいところなのかもしれない。

だが……潰して中身がビチャっと広がると、踏んだことを後悔すること疑いなしだ。靴底にべっとりガムか犬の糞のようにくっ付きそうだ。

「踏んで~踏んで~!」

「……」

 あほ。


「サッキュバスも酒が過ぎて寝落ちした日は朝風呂すら入らないじゃなか」

 不潔だとは言わないが、風紀の乱れを助長している。早寝早起きは魔王軍の鉄則だ――。

「あらら、なんで知っているのよ。ひょっとして、女子風呂をずっと監視してるの? いやらしー」

 女子風呂と聞くと聞こえはいいが、モンスターの女子風呂……ピンク色のスライムや雌のケンタウロス。女子のスケルトンとグール……結局は男子風呂と同じ汚れ方だろう。

「ちょくちょく昼過ぎに二日酔いしたグールのような顔で廊下を徘徊しているではないか」

 せめてメイクを落としから寝ろと忠告したい。……お肌に悪いから。

「グールですって? ひどーい」

 グールにな。グールは飲み過ぎてもキス魔になったりはしない。いくら我々が魔族だからといっても、飲み過ぎてキス魔になってはならない。

 萌え袖のキス魔……おじさん世代ならイチコロかもしれない……。


「萌え袖は本来、女性だけに許された武器なのです。おとこの()ならまだしも、魔王様や陰険な魔法使いは控えるべきです」

 許されるべきではない。

「半袖でも萌え袖できるぜ」

「……」

 おいおい、話を聞いていたのかサイクロプトロールよ。急にヒートテックの長袖を脱いで、わざわざ半袖シャツに着替え始める。……何を考えているのかよく分からん。脳みそも筋肉で出来ているのか。

 ……一生懸命半袖の中に腕を入れ、手だけを半袖口から出す?

「ピグモ~!」

 うはあー冷や汗が出る、古すぎて。現代人には、「はしっコぐらし」にしか見えないぞ――!

「それは萌え袖とは言わない。半袖シャツが伸びるからやめておけ」

 この寒い中、また長袖に着替えるサイクロプトロールの背中にはビッシリ鳥肌が立っていて、見ている方が鳥肌が立つ。つまらな過ぎて腹も立つ!


「予がこのローブ以上に似合う召し物があるというのなら……仕方ない。イメチェンしてもよいぞよ」

 勝ち誇った魔王様はニヤリと悪い顔をしている。

「「ははー。ございません」」

「即答するな! ございませんではございません!」

 ……。

「それを探してくるのだ。予はキャーキャー言われたいのだ。萌え袖以上にナウでヤングな魔王になるのじゃ」

 頭が痛くなる。自分で蒔いた種とはいえ……愚行を犯してしまった。


 ナウでヤングな魔王って……。


読んでいただきありがとうございます!

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