三話『二人目の出会い』
久しぶりの投稿になりますね……。
※2020/02/15
サブタイトルを【二人目の異世界人】から【二人目の出会い】に変更しました。
「それじゃ行くわよ、ハルト。しっかり捕まっていてね!」
「は、はい……っ‼︎」
スカイドラゴンの背に跨り、アイリスの一つ後ろに並ぶ。
「ブルー、飛んで!」
アイリスの掛け声と共に翼を広げて草原を駆ける。その勢いのまま地面を蹴り、風に乗って上昇していく。
「うおおおおおおお……っ⁉︎ た、高いっ‼︎⁉︎」
金髪美少女の腰に落ちないようにしがみつきながら恐る恐る下を見れば、何かの間違いで落下でもしたら即死亡するレベルで高い。具体的には、ビル七階建てくらいの高さにいる気分だった。
「見て見て晴翔! 良い景色でしょ‼︎」
「は、はい……いい、景色、です」
ぶっちゃけ、景色を楽しむ暇はなかった。
広い草原だなぁと高さに怯えて死んだ目をしていることに気づかないアイリスは、残酷にもこう言った。
「よーし! もっと飛ばして行こっか!」
(こ、これ以上速くなるのか……っ⁉︎)
別に、遊園地にあるジョットコースターのような絶叫系のアトラクションが苦手というわけではない。けれど、あれらは乗る人の安全を考慮してシートベルトがあるから楽しめるのだ。安全が確保されているからこそ楽しめるもので、このスカイドラゴンの背中にはそれらしきものがない。
つまり、滑って落ちたら終わりだ。
(それが、もっと、速い速度で、移動??)
ただでさえ七十キロは超えているだろう速度で走っているのだ。
命綱無しの状態が後どれだけ続くのが分からないこの状況で、これ以上の速度を出す?
(俺、死ぬ気がする)
下手したら、先ほどの魔物とのエンカウトよりも身近に死を感じた瞬間だった。
ここから後の事は、何も覚えていない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ハルトー、ハルトー? 生きてる?」
朦朧とする意識を覚醒させたのは、アイリスの声だった。
ブルーの背中でぐったりしている一星の肩を優しくぽんぽん叩いていた。
「い、生きて……ます、」
「ちょっと飛ばしすぎちゃったかな? ごめんなさい」
「くぅん」
アイリスが申し訳なさそうに謝ると、同じようにブルーも悲しそうな声を出した。
(鳴き声が犬……っ⁉︎)
ドラゴンってこんな鳴き声なのか⁉︎
そんな新しい異世界の発見に驚愕してから、辺りを見渡してみる。
着陸したということは、ここがアイリスの目的地なのだろう。
「テント…………?」
視界に入ったのは、中が空洞になっていて入れそうな大きな布をドーム状に広げているものだった。
誰かがここでキャンプでもしていたのだろうか。そう考えてから、もう一度よく見ると車輪のようなものが四つほど付いている。
どうやらこれは乗り物のようだ。
(これ、ハンドルっぽいのがないのにどうやって動かしているんだ?)
異世界の乗り物? に興味津々な一星とその様子を不思議そうに見ているアイリス。
その直後に、一星の耳は聞き慣れない音を拾って──、
(なんだ……? また魔物かっ⁉︎)
「ん? なんだアイリス、戻ってたのか」
慌てて振り返った一星の前には、剣道の防具みたいな、ゲームでいうとプレートアーマーを身につけたいかにも剣士という青髪の同い年くらいの少年がいた。
「今戻ってきたところよ、ティトス」
「そうか……、ところで、こちらの人は?」
「え、えーと、さっき魔物に襲われてるところをアイリスさんに助けてもらいました。俺は、一星晴翔って言います」
「イチホシ・ハルト…………珍しい名前だな。なら、ハルトって呼ばせてもらうぜ! 俺はティトス=ガロン。気軽にティトスって呼んでくれ!」
すると、ティトスの背後から顔を覗かせたアイリスが嬉しそうに言った。
「ティトスも私の探検隊の一員なんですよ!」
「……いや、別にお前の探検隊の一員になった記憶はないんだがなぁ」
アイリスの言葉に、右手で頬をかきながら苦笑するティトスはどこか不満そうだった。
「そういや、ハルトとはどこで会ったんだ?」
「セルギア草原だよ」
「セルギア草原⁉︎ また随分と遠いところまで行ったよなぁ」
どうやら、一星がいたあの場所は『セルギア草原』と呼ばれる場所らしい。
「まあ移動はブルーに任せてたから、そんなに時間はかからなかったわよ」
ブルーで移動? と首を傾げたティトスはすぐに一星の方へと視線を向けた。
ティトスの表情は、何かを察した顔だった。
「まさか……………、ハルト、お前アイリスと一緒にブルーに乗ったのか?」
「は、はい…………、」
「そうか……、そりゃ、災難だったな」
そう言って遠い目になるティトスを見て、一星も察した。
どうやらお互い被害者のようだ。
(あれは異世界基準でもヤバい速度だったのか)
とりあえずスカイドラゴンに乗る時の速度はきちんと基準を設けた方がいい。法定速度というものがどれほど安全を守っていたのかを一星がきちんと理解した瞬間だった。
「さて、そろそろ戻るとするか」
「そうね……もうすぐ日が暮れる時間になるでしょうし、今から出るなら明るい時間には着くと思う」
荷物をまとめ始めたティトスとアイリスの会話に置いてけぼりになる一星は慌てて問いかける。
「ま、待ってくれ! 行くってどこに……?」
その言葉に「待ってました!」と言わんばかりの表情で微笑んだアイリスが言った。
「私達の家がある場所よ!」
そうして一星達が乗ったのは『竜車』と呼ばれている乗り物。
小型の竜種であるスカイドラゴンに引かせて走らせるもので、この世界では一般的な乗り物らしい。
なんでもティトス曰く、
『本来ブルーみたいなスカイドラゴンは空中よりも地上の方が動きやすいんだよ』
名前に『スカイ』なんて空の意味の名前が付いているというのに、陸での方が動きが速いってどういうことだよと心の中でツッコミを入れた。
何はともあれ、ティトスとブルーによる安全運転でアイリス達の住んでいる街へと移動していた。
「あれ、もっと速度出さないの?」
「俺はお前と違って爆走はしないの!」
そんな二人の会話を聞いて苦笑いを浮かべる。
壁に背中をくっつけてから後ろを見れば、異世界の大自然の景色が広がっていた。一星のいた世界には決してない、見たこともない現実離れした光景が広がっている。それこそ、アニメや漫画などの世界だ。
(…………やっぱり、慣れないなぁ)
馬車に揺られながら外の景色を見ていても、その現実離れした光景には一向に慣れない。
どう考えたって山が浮いているのはおかしいし、あの変な魔物とか呼ばれる生き物もおかしい。
(これ、元の世界に帰れるやつなのか……?)
いや、このままでは元の世界に帰るどころではない気がする。むしろ今は一日をどう乗り越えるかが重要になってくると一星は考える。
これからどうするかを考えていた一星の耳に、前でスカイドラゴンを操るティトスの声が聞こえた。
「お、見えてきたぜ二人共!」
「お、おお……っ!」
ティトスの後ろから覗いた一星は思わず声が漏れる。
竜車から見えるのはレンガ造りの家が並んでいる街並みに、所々にあるカラフルな花が綺麗な景色だった。
「それじゃあ改めまして、ようこそ」
一星の隣で、アイリスが明るい笑顔を浮かべて歓迎の言葉を口にした。
「ここが私達が住んでる希望と花の街、リーディアよ」
この異世界で、初めての人里へと、一星は足を踏み入れる。
※2020/02/15
サブタイトルの変更理由としては、一星晴翔を『迷子の異世界人』と“アイリス達の世界から見た異世界の人間”と表記している為になります。