第六の夜 儚い夢
それから。
昼も夜も関係なくなった。
互いが求めるままに、互いの身体に触れ合った。
それは快楽を求めるのではなく、ただ傍にいることを確かめるだけの行為で、体を絡ませたまま眠り空腹で起きそしてまたいっしょに眠った。
理解してはいたが、哲美の身体は加速度をつけて衰弱していった。
「冷たいでしょ」
「ううん」
哲美の胸にもたれかかって眠る。
本当は酷く冷たかったのだけれど。
もう腕も足も完全に冷たくなっていた。
まだ僅かに熱を残しているのは頭部くらいなものだ。
「もうちょっと」
「え?」
「もうちょっとでいいから、いっしょにいたかったな」
言われて、陽奈子は涙を零した。
「何よ。泣かないでよ」
哲美は苦笑して、上手く動かない手をどうにか動かしてぽんぽんと陽奈子の頭を撫でた。
「あなたそんなに泣き虫だった?」
「てつがいけないんだよっ」
「あたしのせいにしないでよ。というか、てつって呼ぶな」
笑って、哲美は陽奈子を抱きしめる。
陽奈子は、まだ、泣いていた。
祈りは届かない。
願いは叶わない。
神様なんていない。
「な」
「うん?」
もう立ち上がることも出来なくなった哲美はベッドの上で背中にクッションを当ててもらって壁に寄りかかるようにして上半身を起こしている。
「『儚い』って字、知ってる?」
「はかない?」
「ああ」
おじやを作っていた手を止めて、陽奈子はちょっとだけ考える。
「わかんない」
「にんべんに夢って書くの」
「へぇ」
「人の夢、って書くんだよ」
慌てて振り向いた。
哲美は微笑んでいた。
陽奈子は何も言えなかった。
付き合い始めたきっかけは、何だったのかちゃんと覚えていない。
というのは陽奈子の建前だ。
会社で同期でたまたま宅飲みをしていて、酔った勢いで告白をした。
断られたら酔っていたのだと言い訳をするつもりだった。
でも、哲美は受け入れてくれた。
てつ、と呼ぶとやめろと言われたけど、うれしかった。
ただ、自分だけが許された名前のようで好きだった。
ちょっと横柄なところはあったけど、哲美は陽奈子を大事にしてくれたし陽奈子も哲美のわがままを出来る限り聞き入れた。
ずっと、そうしていっしょにいられるものだと思っていた。
別れなんて、いつ来るのか分からないものだったのに。
そうして、六日間はあっという間に過ぎてしまった。
七日目のその朝はいつも通りで。
そっと、閉めきっていたカーテンを陽奈子は開いてみた。
「明るいな」
哲美がぽつりと言う。
ここのところずっと寝てばかりいる。
それだけ体力が消耗しているしるしなのだろうと思う。
「うん」
ちゃり、と陽奈子の手の手錠につけられた鎖が鳴る。
まだ、それははずされていない。
「てつ」
「ん?」
「……なんでもない」
少しだけ、陽奈子は悲しげに笑った。
ぐったりと目を瞑っている哲美には、その表情は見えなかった。