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ドングリ池が埋まっちゃう!?

作者: 小道けいな

 キツネは木の実を集めていました。木の実はそのまま食べたり、キツネが作るパンに入ります。

「これだけあれば十分ね」

 道の真ん中に、赤いマフラーが落ちていました。

「あら、誰かの落とし物かしら?」

 キツネは拾うために近づきました。

 なんてことでしょう!

「きゃあ」

 キツネは落とし穴に落ちてしまいました。

「あいたたた……」

 キツネが持っていた籠の中にあった木の実はぽーんと空高く舞いました。そして、周りに散らばってしまいました。

「誰がこんなことをしたのかしら?」

 キツネは溜息をもらして木の実を拾いました。籠にたくさんあった木の実は半分ほどになっていました。そのため、新たに木の実を拾うために戻っていきました。


 近くを通っていたヘビの頭の上にたくさんの木の実が飛んできました。

「あいたっ。なんで木の実が降ってくるんだ?」

 ここには落ちてきた木の実がなる木はありません。

「しめしめ、これはボクが食べていいに違いない。おなかが空いているから食べてしまおう」

 ヘビは木の実を口にくわえると、飲み込むように食べて行きました。

「それにしてもどこから来たんだろう? 探してみよう」

 木の実が飛んできた方向に行ってみることにしました。

 そこには落とし穴と赤いマフラーがありました。

「んー、これはいたずらだね? リスのしわざかな」

 ヘビはいたずらに巻き込まれてはいけないと違う方向に進みました。


 ポンと飛んできた木の実はクマの頭に当たりました。

「うわあああ」

 クマは大きな体を小さく縮めて震えました。

 痛くはなかったのですが、何かが体に当たったのが怖かったのです。

 しばらく震えていましたが、それ以上何もなかったので、恐る恐る手の隙間から周りを見てみました。

「何が飛んできたんだろう? 見えないお化け?」

 自分で考えただけで怖くなってきます。そんなお化けはいないはずですが、見えなくてもいるかもしれないと考えてしまうのです。

「ぼくはもっと堂々としていたいんだ。いろいろ怖くはないんだ! でも、怖くなっちゃうんだ」

 転がっている木の実はドングリでした。

 ドングリ池にはドングリを投げ入れてお願いごとをすると、願いが叶うという噂があるのです。

 これまでもしてみようと考えたことはありましたが、もし、叶わなかったらどうしようと思ってしまったのです。

「か、叶わなかったら、今までと変わらないだけだよね」

 どきどきしながらクマはドングリを手に行くことにしました。


 ドングリ池の側の木に、コマドリは止まって歌っていました。

 ドングリ池は水が澄んでおり、泳いでいる魚もくっきりと見えます。

「逆さ虹はお空の器。お水に写るとただの虹。ただの虹ではないのです。写ると普通なのだから」

 コマドリはこの森の空にかかる逆さの虹のことをうたっていました。

 きれいな歌声は森の仲間の中で有名です。

「ドングリたくさん、どんぶらこ」

 そこにアライグマが来ました。アライグマは手にたくさんのドングリを持っています。

 昨日も持ってきていたのをコマドリは見ていました。その前も、その前もです。

「アライグマは、たくさんお願いをかなえたいの?」

 歌うようにいいました。アライグマはコマドリに向かってドングリを投げました。

「うるさい! いんちき池にどれだけドングリが入るか試しているだけだ!」

 アライグマは怒っています。

 近くにあった枝を折り、池に放り込みました。

「こんな池、つぶしてやるんだ!」

 願いが叶うかどうかはコマドリにはわかりません。それが噂であると考えているからです。コマドリ自身は試したいと思ったことはなかったので、わかりません。

「怒ってもいいけれど、ここのお水がきれいなのにひどいことをするのは良くないわ」

 コマドリは抗議をしました。そこに棒が飛んできました。

 慌ててコマドリは逃げました。

「池がうまる、池がうまっちゃうよ」

 歌いながら飛びました。


 クマはコマドリの声を聴きました。

「そんなことになったらお願いが叶わなくなってしまうよ」

 慌てて池に行こうとしました。でも。クマはアライグマが暴れているのが怖くて仕方がありません。

 おっかなびっくり向かいます。


 コマドリの声を聞いたリスは驚きました。

「アライグマがやっていることは面白そうだし、暴れているのもいつものことだけど、なんかおかしいよね?」

 不思議に思いながら見に行きました。木の陰からのぞくならきっと安全だからです。

「うわ、ヘビさん!」

「うわ、リスさん……」

 リスは木から木に移動していたところ、葉の陰にいたヘビを踏みつけ落ちそうになりました。踏まれたヘビも驚きました。

「君は聞いたかい? アライグマが暴れているって」

「いつもみたいに?」

「いつもみたいじゃないらしいんだ」

「うーん」

 ヘビは気になりますが、巻き込まれるのも嫌です。

「池を埋ようとしているんだって」

「なんだって? そんなことをするのかい? 驚いたな……木の上からこっそり見てみようか」

 ヘビとリスはこっそりと見に行きました。


 ドングリ池の周りは枝が折られ、土がほじくり返され、池の水は土で汚れていました。

 逆さの虹は写りません。写っていてもどんよりとくらいよくわからないものとなっていました。

 戻ってきたコマドリは空の上から見て嘆きました。

「あああ、ひどい、ひどい」

 しかし、アライグマの怒りは収まっていないようです。

 この状況を見たリスとヘビも困りました。お願いが叶うかどうかより、きれいな水が汚くなるのは嬉しくありません。

「おや? クマが来たぞ」

「クマは体が大きいけれど、気は小さいから、きっと帰ってしまうよ」

「それでいいんだけど、今のアライグマを止めるのはどうすればいいのかわからないからね」

 ヘビとリスはぼそぼそと話しました。アライグマはクマより体が大変小さいため、暴れるの止めるにはクマが適任です。しかし、アライグマは口が汚いところもあり、クマは怯えてしまいます。

 とはいえ、今の状況ではリスやヘビ、コマドリが何を言ってもアライグマは聞いてくれないようです。

 暴れるのはやめてほしいし、止めてくれる動物もいません。なかなか難しい状況です。

 案の定、クマは木の陰からアライグマの様子を見ていますが、震えています。

「キツネさんが来るといいのかな?」

「キツネさんは……木の実拾いに行ってるよね……」

「マフラーは君のだよね」

 ヘビに指摘されてリスはぐうの音も出ません。

 この場を納めてくれそうなキツネはリスの落とし穴にはまって、仕事を一からやり直しになってしまっています。忙しくて来てくれないでしょう。

「大変よ、大変よ。クマさんが、池に向かっているの!」

 コマドリはおろおろとして言いました。

 アライグマを止めてくれるのを期待もしますが、クマが色々言われて傷つくのも可哀相です。

 二匹と一羽は固唾をのんで見ていました。


 クマはびくびくしながら進みました。アライグマがいなくなってからドングリを放って願いを言ってもいいのです。しかし、アライグマが池を壊してしまうならば、止めないといけません。

「お願い、叶えたい……でも……アライグマくんが……」

 クマは引き返そうかと思いました。

「あ、あの、アライグマくん」

 クマの声を聴いてアライグマは動きを止めました。

「何だ! 俺は今、忙しんだ!」

「だだだ、駄目だよ。みんなの遊ぶ場所だし、汚しちゃ」

「うるせー、この池はいんちきだからいらないだろう!」

 いんちきということはお願いをかなえてくれないということことだとクマは気付きました。そのためクマはがっくりしました。

 しかし、それと池や周りを汚すことはまた別です。

 池の水はきれいでおいしいし、空の虹も映るのです。

「ア、アライグマくんがどんなお願いをしたか知らないよ。でもね、池に当たっちゃだめだよ」

「いいだろう! 別に誰かが困るわけじゃないんだし! 叶わないってがっかりする奴が減るじゃないか」

 クマはアライグマが優しい心を持っていると気づきました。しかし、やっていることは良いことではありません。

「だ、だったら、看板を作って広めればいいんじゃないか」

「俺に、指図するつもりか!」

 アライグマはすごみました。

 クマはびくっと身を震わせました。

「アライグマ、クマが言っているとおりだぞ」

 ヘビが声をあげました。

「そうよ、そうよ! 叶わなかったのはかわいそうだけど、池をいじめていいわけじゃないわ」

 コマドリは空を飛びながら歌いました。

「そうだよねー。ここがなくなったら飲み水にも困るし、逆さ虹も映らなくなっちゃうもんねー」

 リスがまじめな顔で言いました。こういう顔をしているのは、いたずらを考えているときだということをヘビは知っています。

「お前ら! うるさーい」

 アライグマはあれこれ投げつけました。

「アライグマくん!」

 クマが大きな声を出しました。でも、飛んでくる物を避けて小さくなりました。

「あらあら、何をしているのかしら?」

 キツネがやってきました。そこに泥が飛んできました。

「ああ、キツネさん!」

 クマが気づいて立ち上がりました。泥はクマに当たりました。

 アライグマは動きを止めました。

「あらあら……クマさん、大丈夫? けがはしていないかしら?」

「痛くはなかったよ。キツネさんこそけがはしていない?」

「まったくないわよ。クマさんがかばってくれたから」

 にこにことキツネが言います。クマはほっとしました。

「なんで、アライグマさんは暴れているのかしら?」

「そ、それは……」

「あらあら、ここの水がこんなになってしまっては、パンを作ることはできないわ」

 キツネは溜息を洩らしました。アライグマは驚いた顔をしました。

「アライグマさんが食べたいと言っていた巨大な木の実パン作ろうと思っていたのよ? それなのに、こんなにしてしまって」

 キツネは周囲を見ました。

 アライグマは肩を落としました。

「そ、そんな……キツネさん、俺が木の実パン食べたいと言っていたの知っていたんだ……」

「ええ、聞いたわよ」

「……俺が、勝手に願いが叶わないと思って、こんなことしちゃって」

 アライグマはしおれます。

 巨大な木の実パンを食べてみたいとずいぶん前に言っていたのです。キツネが毎日忙しいので面と向かって言ったことはありませんでした。

 そのため、ドングリを池に入れて願ったのでした。そのあと、誰かに行ったかもしれません、キツネのパンが食べたいと。

「片付けするよ……キツネさん、その、水がきれいになったら、作ってくれる?」

「ええ、いいわよ」

「やったー。片づけるよ……」

「それと、みんなに謝らないといけないわよ」

 キツネさんは見ていなかったのに、なんとなく気づいていたようです。

「う、その、ごめんなさい」

 アライグマは素直に頭を下げました。キツネを怒らせたら、大きなパンは食べられません。

「お願い……叶うんだ」

 クマはドキドキしながらドングリを手にしていました。

「何をお願いするつもりなのかしら?」

 コマドリがさりげなく聞きます。

「気が小さいって言われたくなくて……」

 小さな声でクマは答えました。

「えええ? クマ、今日、頑張ったよ?」

「そうそう、びっくりしちゃった。だって、クマは怖がって逃げると思ったよ? でも、ちゃんと注意したよ」

 ヘビとリスが褒めました。コマドリも褒めました。

 アライグマが笑います。

「そうだよな。今までなら逃げてたけど、がんばったじゃん」

 クマは目を見開きました。

「まあ、放ってみるともっとクマが怖がりじゃなくなるかもな!」

 アライグマは言いました。

 クマはほっとして笑いました。

 少し、怖がらなくなりそうな予感がしたのでした。

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