1.理由
キーンコーンカーンコーン
授業の終わりを知らせるベルがなった。
慌ただしく教室が揺れる。
「はぁ」
俊一がため息をつく
高校での俊一の評価はいたって普通だ。
成績が悪いわけでも、友達がいないわけでもない。
傍から見ればそれなりに充実しているように見えるだろう。
しかし和樹自身は不満があった。
人を蔑むことで盛り上がる男連中、下世話な話で上辺だけの関係を築く女連中。
俊一にとって人間関係は都合の良い人物を演じることでどうとでもなる"くだらない"モノだった。
そして演じてしまう自分にも情けなさを感じていた。
「・・・どいつもこいつもバカばっかりだ」
そんなことを思い浮かべながら帰り支度をしていた。
「もう帰るのか?」
クラスメイトの海斗が話しかけてきた。
「あぁ、用事があるから帰るよ」
俊一は存在しない予定を作り出し、嘘をついた。
「そうか・・・じゃあまた明日な」
そう言い残して海斗は教室を後にした。
海斗と俊一は小学時代からの付き合いだ。
特別仲が良いわけではないが、海斗が気を遣って話しかけていることに俊一は気づいていた。
それは俊一にとって鬱陶しいものだった。
色の落ちたくしゃくしゃの鞄を手に取り教室を後にした。
昇降口で靴を履き替え、外に出ると重りを外したような何とも言えない解放感が
俊一を包み込んだ。
空は恐ろしいほど綺麗でグラウンドからは野球部の掛け声が聞こえる。
いつも通りの光景だ。
変わり映えのない毎日、この先も一生続くのだろうか、そう思うとまた俊一の肩に重さがのしかかる。
(いっそ死んでしまおうか)
そんな考えさえも頭によぎる。
家の前に着き、ポストを開けると茶色の封筒が入っていた。
少しだけ重たい。
綺麗な字で「近藤 俊一様」と書いてある。
差出人は不明だ。
鍵を空け家の中へ入り、電気をつけて物が散らかった床に腰を下ろす。
ふとスマホに目をやると母からのメールが届いていた。
「どうせちゃんと飯食ってるかどうかの確認だろ」
海外で働いている母からのメールは毎日同じような内容なのだ。
内容を確認することなく画面を閉じた。
それからシャワーを浴び、食事を済ませ、テレビの電源をつけた。
「貯金をするためにしなくてはならないこと」の特集の番組がやっていた。
別のチャンネルにすると今度は「長生きするために必要なこと」の特集だ。
同じような内容と同じようなタレントに辟易しテレビの電源を消す。
暗いテレビの画面に自分の顔がぼんやりと映る。
「はぁ」
また深いため息を吐いた。
そういえば・・・ポストに入っていた封筒を思いだし開けることにした。
封筒を破り中身を確認する。
中には三つ折りの白い紙と茶色い小瓶が入っていた。
白い紙には赤いインクの殴り書きでこう書かれていた。
おれはみている
きをつけろ
馬鹿馬鹿しい、どうせ悪戯だろと思い俊一は茶色い小瓶も空けてみる。
中には真っ赤な液体が入っていた。
「なんだよ・・・気持ち悪いな」
洗面所で中身を出してみた。
真っ赤な液体の中には人間の指が入っていた。
「うわああああああああああああ!!」
俊一はトイレに駆け込み胃の中のものをすべて吐き出した。
呼吸がうまくできず、自分の体が震えていることに気づく。
深呼吸をし、何とか平静を取り戻す。
「はぁ・・・はぁ・・・」
落ち着き始めた俊一は何が起きているかを考えた。
誰が、何のために、何故俺に、考えてみてもわからない。
そして赤い字で書かれた文章が血で書かれたことに気がつく。
ゆっくりと洗面所へ向かい、謎のものを横目に顔と口を洗う。
タオルで顔を拭き、何となく鏡越しに自分の顔を見た。
そこに映る自分は何故か笑っていた。