これは、我々の世界でも有り得るかもしれない一つの可能性の欠片だ。
影。
それは、何処にでも有り触れ何処にでも存在しない
そんな存在である。
その本質は闇の一端とも、闇とは異なるとも言われ
それを巡り、日々我々物書きは思考を巡らせる。
さて、この物語はそんな闇とも言えない影として
影そのものとして生まれたとある一人の人間の
本質であり、人間日記とでも言えよう、
奇妙なる物語なのである…
ある朝。
それはこの世に生まれ落ちた。
ゆらゆらと消えそうな炎の様にそれは存在している。
それはまさしく影。
黒く、日を嫌い、同じ影を求める影である。
その母は驚き、その父は恐れと何故か沸き起こる
安堵に呑まれこの場は正に混沌に呑まれつつあった。
医師はこう言った。
「信じられない…まさか…まさか、こんな事…」
そう、それは影。影だけで体は無く、
ただ生まれてからずっと泣き続け泣き続け、
影は身体となり、赤子の型をやっとこさ作っている
影なのだから…当然ながら今までにこんな事
無かったのだ。
子どもが影のみで生まれてくる。
それはどんなに面妖で恐ろしいか。誰もが思う。
そしてそれは世界始まって以来。
一人目として、影が意思を得て泣いているのだ。
世界は震撼した。
ある者は神の使いだと、ある者は悪魔の子だと、
またある者は異世界の者だと。
最初は、それがただ赤子としている事に。
そう、可能性を秘めたパンドラの箱だと思い
皆ただただ恐れるしか無かったのだ。
だが、それは一転した。
「まま」
そう、影が初めて発した言葉から世界は再び
動き出して行くのだった…
そして幾年かたった末…
「さぁ、始めようか。今日1日を楽しく、
過ごそうじゃあないか。」
影は笑いながらそう呟いた。