第三話 村 2
続きです。
しかし、こいと言われても本気で争う気など毛頭無なかった健人が逡巡しているとオードウィンが膝を曲げてさらに深く沈みこんだ。
「来ないのならこちらから……行くぞっ!」
「ぅわッ」
オードウィンはズザッと恐ろしい速さで健人との十歩以上はある距離を一気に詰めると剣を振り上げた。
健人は思わず頭を守ろうと両手を上げる。
しかしその振り上げはフェイントで、クルリと剣を回すと半円を描くようにして銀閃が骨の胴体へと吸い込まれていった。
余りに速い一連の動作は素人に到底とらえきれるものではなく、その衝撃は空を裂き、骨を砕き、必殺の一撃になる――はずだった。
ゴガッ
鈍い音がして剣がはじかれる。
「なっ……」
隙だらけの相手に対し、容赦なく今の自分にできるの最高の一撃をくらわせられたと確信していたオードウィンは思わぬ反動に剣を取りこぼしそうになる。
痺れる手で剣を握り直してなんとかこらえたオードウィンは、一歩下がると次の一手で今度こそへし折ってやろうと意気込み、初撃が穿った傷を見る。
「な、に……?」
だが、白い陶磁のような骨には傷一つついていない。
かすり傷一つさえ、だ。
確かに彼の剣は切ることに特化している。
しかし全体重を乗せた重みのある一撃は骨を軽く砕くものである。
実際に猪の頭蓋を叩き割った経験がある彼は信じられないといった様子で目を見開き、自虐気に笑った。
「ははっ……俺の一撃を受けて無傷、か。自信なくすぜ」
彼は僅かに目の光を濁らせたが今度は下段に刃こぼれし始めた剣を構えた。
まだ諦めてはいない。
(堅くて腐食持ちか……なら……)
その言葉を受けて健人は考える。
この体はいくら切られようが叩かれようが傷一つつかないくらい恐ろしく頑丈にできているうえに物を腐食させる力を持っている。
ならば相手を無力化させることなど簡単だ。
武器を溶かしてしまえばよいのだ。
「ムダだ。ナンドやッテモ」
「……」
降伏するよう凄むがオードウィンはそれに答えない。
この男は戦うしかないのだ。
愛するこの村を守るのが使命なのだから。
襲い来る外敵に対して背を向けることは許されない。
ガッ……ガッ……ゴガッ!
二桁は健人が無防備に攻撃を受けた頃だろうか。
オードウィンは荒い息を悟られぬよう歯を食い縛り、目尻に涙をにじませていた。
彼が震える手で握る剣はまるで100年前の遺跡から出てきたもののように腐りきっていた。
「満足シタか?」
「グッ……!」
彼の職業はこの村を守る剣士。
この村の誰よりも強く在らねばならない。
それなのに弱いモンスターであるはずのスケルトンにすら少しも傷つけることができず、それどころか歯牙にもかけられていない態度に自尊心と存在意義をへし折られかけていた。
「オードウィン! 無事か!」
「マークス……」
聞き覚えのある声にオードウィンは袖で顔をぬぐう。
村の者には弱気なところなど見せられない。
なぜ戻ってきたのか責め立てようとするが、走ってくる彼の背で揺れる老人が目にはいった。
「カガラ様!」
「念のためにつれてきて正解だったようだな」
スケルトンを睨むマークスの背には髭を伸ばした一人の白髪の老人がいた。
黒を基調とした奇っ怪な紋様の描かれたローブを身に纏っている。
まるで修道着のようだ。
それが指し示す彼の職業は聖職者。
つまりアンデッドの天敵である。
(え? やばくない? 浄化的なアレだよね?)
物理攻撃に対して完勝して油断していた健人は思わぬ伏兵に後ずさる。
「世界の理に背くものへ、一柱の裁きを」
老人が背負われたまま短杖を握りしめ、薄く開けた眼で村に現れた不浄なる存在を捕らえながら天への祈りを捧げ始めた――――と思ったその瞬間、天から目のくらむような白い輝きが降り注いだ。
その光の柱は逃げる間も与えず、一瞬にしてスケルトンの細い体を無慈悲に飲み込んだ。
浄化は無条件で一撃必殺なゲームもありますよね。




