第十九話 哀しみ
村は最後だしちょっと長め。
「ナルホド。ソウ言ウ存在ダッタワケダ」
閑散とした村の中、アルマは誰かの家の箪笥を開けながら納得する。
「そう。私は元々魂だけの存在だったから骨の体が消失しても無事。そこで芋虫の後ろにスペアを作ってアプローチしたんだ。骨を切らせて骨を断つってね」
「肉ナイモンナ」
その横ではケルトも同じく家探しをしていた。
「そうだ。肉と言えば普通に身体作れるんだった。ほら」
突然ずももと足元の床から盛り上がった板や土くれがケルトの骨の体を包み、身体を形成していく。
そして出来上がった身体は青みがかった白髪の幻想的な少女だった。
「どやっ」
「オォ……可愛イジャンカ」
「でしょー?」
「デモ俺ノ元々ノ身体ト全然違ウ見タ目ダナ」
「そりゃあオリジナルの身体は消し飛んだからね」
「ソウダッタ……」
素体がなければ大まかな形もわからない。
いくらケルト自身が無事だったからと言って入れ物が無事なわけではないのだ。
「……シカシ本当ニ神様ミタイダヨナァ」
「実際、祭られてたしね……でもアンデッドも似たようなもんじゃない? 物は腐らせるしゾンビ作るしで破壊と創造してるよ?」
「確カニ……」
「それに死んで生き返る神様なんてごまんといるからね。アンデットは神みたいなもんだよ!」
「サスガニソレハ言イスギジャネェカ?」
とは言いつつも死んだら仏さんとも言うしあながち的はずれでもないかとアルマは思う。
「よし、こんなもんか」
そんな話をしている間にケルトの持つ籠にはガラクタのような物品で溢れていた。
「案外時間カカッタナ」
空はもう夕暮れで赤く染まっていた。
それから向かったのは今も黒い染みの跡が残る村の中央。
そこには横に十メートル以上はありそうな大きな穴が開いていた。
ケルトはその穴に持ってきた『遺品』を投げ込む。
「ごめんね。私たちは君たちのことをまだそれほどよくは知らない。だからこんな埋葬で勘弁して」
ケルトがぼろぼろにしたオードウィンの剣、使い古された農具、動物を模した人形などを次々に入れているとその中で気になる物を一つ見つけた。
「日記?」
それはこんな辺境の村にしては珍しい丁寧な装丁の為された立派な日記帳。
表紙には所有者の名前がかかれている。
「ドレフ=ノートン? 誰?」
「……!? チョット貸セ」
「ん、どうぞ」
文字も読めるようになっていたケルトが名前を読み上げると、両手でかごの中の遺品を穴のなかにいれていたアルマが血相を変えてケルトからその日記帳を取り上げた。
「……」
アルマは日記を床に置くとつかみにくそうな人形の手で一枚一枚ページをめくっていった。
そして最初のページまで遡ると動きが止まった。
「なになに? 知り合いの?」
「ソウダナ……馬鹿ナ奴ダッタ」
アルマは日記帳をパタンと閉じた。
「……アー馬鹿馬鹿シイ。ナンカ俺ノ復讐トカドウデモヨクナッテキタワ」
そしてその日記帳を穴のなかに投げ入れた。
風を受けた日記帳が開きながら落ちていく。
「それじゃあ先に私の用事から済ませていい?」
「ソウダナ」
「盗人から私を取り返しに」
この先の目標を定めるとケルトはスコップでアルマは霊力を使って穴のなかに土を入れ始めた。
いつの間にか集めた遺品は全て穴のなかに入っていて籠の中は空っぽだ。
「そう言えばご主人の体、作れるわ」
ケルトが作業しながら思い出したように言うと、アルマが「マジデ!?」と土を流し込むのを止めてグリンと人形の首をケルトに向けて回転させた。
ちょっと怖い。
「ゼヒヤッテクレ!」
アルマは一刻も早く人の身体がほしいのか食いぎみに要求する。
そこでケルトは一旦スコップを地面に突き刺すとイメージを膨らませ始めた。
「それじゃあ作るけど、どんな見た目だった?」
「アー、元ノ身体ハソンナニ見テクレハ良クナカッタンダ。ダカラ新シク作ッテクレ」
「わかった。何か希望はある?」
「ケモミミ! 以上!」
「ケモミミ……猫耳とかそんなやつだよね」
「ソウソウ。出来ソウカ?」
「まぁやってみるけど……ほいっ」
「オ? オォ!」
彼女たちが大きな墓の前でわいのわいのと騒いでいると柔らかな一陣の風が吹いた。
その風で日記帳の上に薄く積もった土がさらさらと流れる。
それであらわになった最初のページにはこう書かれていた。
『この日記は私の贖罪の日々を綴った日記である。いつか森の中で静かに眠るアルマお嬢様に届くと信じて。 筆頭護衛ドレフ=ノートン』
日記の中身は想像にお任せします。
次のサブタイトルは「侵攻」。
侵攻です。




