第十五話 災厄 2
まだいける
「何の騒ぎだ」
もう農作業は終わりの時間だというのに急に騒々しくなった村の様子に異変を感じた村長ドレフ=ノートンは家の外に出た。
「これは……」
するとそこには信じられない光景が広がっていた。
家が壊され、邪魔するものは蹴られ、女子供でも容赦なく引きずりだされて広間に集められる。
それはまるで野盗の所業のよう。
だが、それを為しているのは紛れもない聖職者の集団であったのだ。
「村長! 大変です!」
「何が起きている!」
「シスター様が乱心されているのです!」
「シスター? 誰が呼んだんだ!」
村人からの報告にドレフは混乱を極めるばかりだった。
その混乱の中、オードウィンが慌ててその聖職者のリーダーであろうシスターの元に飛び出してきた。
「シスター様! お止め下さい! 」
「おや? 貴方は?」
「私はオードウィン。教会へ連絡をしたものです!」
「なるほど貴方が……」
「その者の無礼は詫びます! アンデッドの居場所もお教えいたします! ですから命だけは!」
「そうですねぇ……」
オードウィンが教会の人間と連絡を取っていたことはドレフのあずかり知れぬところであった。
故に彼は憤慨する。
「あやつ! 勝手な真似を……っ!」
本来連絡用の「電話」は貴重な霊力を込めた霊石を使うため、会議で使うか判断するので誰かの一存で使うことはあってはならない。
しかしなぜ教会がこのような暴挙に出るのか。
「考えている余裕など、ないっ!」
ドレフは杖をくるりと回転させると瞬時にサミアを広間に連れて行こうとしていた信奉者の一人の腹を突いた。
加速と体重の乗った一撃は重く、攻撃を受けた信奉者は「カハッ」と息を吐いてその場に崩れ落ちた。
ドレフはその後も一人、また一人と信奉者を殺すことなく意識だけを刈り取って行った。
あるものは首を、またある者は顎を杖で打ち据えられて。
「あら……元気なご老人が……」
そんな老人の姿を見てアリアナが背中の荷物に手をかけた。
その行動を見たオードウィンは長年の経験から危険を察知し、止めに入った。
「お待ちください! あの方はきっと誤解なさっているのです」
「……そうですか」
アリアナはオードウィンの言葉を素直に信じ、獲物から手を放した。
オードウィンがほっと一息ついたのもつかの間、彼女は澄ました顔で言った。
「ならばあなたが相手をして止めてきてください」
「私が……ですか?」
「間違いは仲間が教えるべきでしょう?」
「……はい」
オードウィンは彼女に従うしかなかった。
自分が彼女を呼んだのだ。
総本山のシスターがこれほど過激派だとは知らなかったがこれは自分でまいた種。
自分の尻は自分でふかねばならない。
「オードウィン貴様……」
オードウィンは抜身の剣を構え、自らの村の村長に切っ先を向けた。
「申し訳ございません村長。大人しくしておいてください」
「貴様が何をしているのかわかっているのか?」
「スケルトンを差し出せばすべて丸く収まるのです」
「また……またあの方を犠牲にするなどできようものか」
「やはり何かご存知の様子……。この際、全部吐いてもらいます。あんな化物を擁護する理由を……!」
「老いたとはいえ元首席護衛。簡単には負けんぞ」
両者は戦う理由を見つけるとお互いの意地をぶつけ合わせ始めた。
「あぁ……良い……良い悲しみの感情です……」
そんな彼らの剣戟の音を聞きながらアリアナは泣いていた。
戦いが悲しくて泣いているのではない。
彼らの感情が伝わってくるのだ。
甘美な悲しみの感情が。
「さて、大変悲しいことですが背信者はすべて殺さねばなりません」
アリアナはそういうとぐにゃりとその姿をゆがめた。
蜃気楼のように曖昧になるその輪郭はやがて一つの姿をかたちどる。
「一人残らず……ね」
その容姿は成人男性、オードウィンの姿に変わっていた。
平穏が崩れていくのです。




