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カミノ村魔術店〜召喚事故と魔術のバイト〜  作者: 久陽灯
閑話とここまでの登場人物
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閑話 カミノ村の魔術店店長の手記

豊穣の月第二木の日

 昨日の夜更け、私の部屋に駄目人間が湧いて出た。

 名はエイト・シドービ。ニホンのトーキョーキタクの風呂場から落ちたとのこと。

 腰布一枚の変態だったため、杖で殴打して簡単な足止めを施し尋問する。

 足止めから全く抜けられず。魔力耐性は皆無。

 他人の心が分かる能力を持つロゼが、エイトの話は真実だと言うので、その場から尋問をインコのロッドに任せる。

 奴が自分から話す相手を決めるのは久々なので、何か思惑があるのかと思ったら、一晩中楽しく喋っていただけらしい。ちょっと同情する。

 朝、証言から召喚魔法で呼び出されたことが発覚。

 恐らく移送中に事故ったものだと思われる。

 一体何が出来るのかと尋ねたら、何も出来るわけないだろと逆ギレされた。

 召喚には多量の贄や卓越した技量が必要なはずだが、このやる気のない駄目人間を一体何のために呼び出したのか理解に苦しむ。

 とりあえず、この時期は収穫と煮込みで忙しいので、手伝い人になってもらう。

 多大な犠牲を払ってまで召喚する人物ではないが、煮込み程度ならできるはず。

 召喚についての文献を読んでみたが、やはり禁術ということもあって情報が少ない。

 ここまで召喚を成功させたということは、技術と共に禁術に詳しくなくてはならない。

 恐らく、杖持ちの連盟離反者か。

 村で贄に使われたであろう行方不明者の話は聞かない。この閉鎖的な村で噂にならずに大勢の贄を連れ去ることは不可能だろう。

 もしかしたら、街で贄を調達したかもしれない。

 領主のラインツにも手紙を書いておこう。奴も今忙しいときなので面倒くさがるだろうが、自分の領地内で贄を最低100人は使う非人道的な禁術が行われたということは伝えておくべきだろう。



豊穣の月第二竜の日

 鍋をかきまぜるのが癖になっていて困る。この間は飲むのを忘れてスープを延々とかき回していた。

 エイトは文句も多いが意外と人当たりがいい。村人とも積極的にコミュニケーションを取っているようだ。私が何と言われているか察しはつくが、甘んじて受けよう。

 最近ロッドも楽しそうだ。私たちしか話せる人が居なかったので、エイトという「しゃべってもよい人間」が増えて喜んでいるのだろう。ただ、口止めはしておかねばならない。不用意に私たちの秘密をばらされては困る。

 エイトの召喚主を探ろうと思い、私の部屋の魔気を計ってみたが完全に後処理されていて逆探知の隙もなかった。やはり手練れだ。もしくは、召喚主は複数人かもしれない。だが、複数人での召喚は一般的ではないはず。共通で何か強く望むものがあれば別だが。

 ……今思ったが、通常は魔方陣上に呼び出される召喚に、魔気の後処理は必要か?

 召喚対象は目の前に呼び出されるはずなのに、わざわざ魔気を消す意味は何だ?

 駄目人間召喚と同様、まだ分からないことも多い。



豊穣の月第三木の日

 プリンス草の収穫と分離を完了。やっと秋の作業の前半が終わった。

 そして、エイトがサーガ熱にかかった。冒険者になって最終的に魔王を倒す英雄になりたいらしい。あのひとのような言いぐさにちょっと笑えたが、エイトが冒険者になったら一日で骨になるだろう。そもそも証明書なしではギルド登録すら無理だが。

 気晴らしが必要なようなのでサレナタリアへ行かせることにした。気晴らしにならなくとも、あの勇者像を見れば、また現実に戻るだろう。



豊穣の月第三大地の日

 エイトのサーガ熱が悪化した。あのロマンもセンスも皆無の英雄像を見れば目が覚めるかと思ったが、逆におかしくなって帰ってきた。魔力耐性がほぼないのに杖持ちになりたいと言い出している。失敗。

 街に行ったロッドから精神譲渡があり、何かと思えばラインツに説教された。絶対に動くなと念を押してくる。迷惑をかけているのは認めるが、人を火薬庫か何かのように言うのはやめてほしい。



豊穣の月第四炎の日

 ミルトンの家の息子がまた花束を持ってこちらの隙を伺っていたので、煙幕で脅してやったらすぐに退散した。バカめ。ロゼに花束をプレゼントしようなど百年早い。

 ロゼが(にえ)のことを知ってしまった。いつからか神聖ヴィエタ語が読めるようになってしまったようだ。独学だからどこまで読めるのかは分からないが、子供の成長の早さはたいしたものだ。……困った。この手記もどうせ読めないと思って子育ての愚痴や文句も書いてあるのに。神聖ヴィエタ語初期の神鎖文字で書こうか……いや、イタチごっこになる予感がするから封印の魔術でもかけておくか。



豊穣の月第四水の日

 地下菜園が行方不明になってしまった。落ち込む。魔力の供給は欠かさず行っていたはずなのに。やはり贄を使わないと、少しの魔力のゆらぎで座標が外れてしまうものなのか。収穫の大半が終わっていたことだけが救いだが、うちの鶏とトリデンタータ草は永遠に亜空間を彷徨い続けるのだろう。

 これだけでも大変なのに、エイトの奴が山から余計なものを連れてきた。翼をもがれた飛竜を山で見つけてきたらしい。ロゼが食われたらどうする気だったんだ。とりあえず、飼い主の見当はついているそうだ。早々に引き取ってもらおう。説教つきで。



豊穣の月第四木の日

 飛竜の件だが、なぜか回り回って私が怒られた。理不尽すぎる。それにしても、ロゼは本気で指輪を盗みかねないところが怖い。あのひとと同じく言い出したら聞かないから。指輪の持ち主に会わないよう祈るばかりだ。

 夕食の席でエイトがとんでもないことを言い出した。前から少しおかしいとは思っていたのだが、拙い知識を振り絞った挙げ句、私が初代魔王だという結論に至っていたらしい。確かにロッドは初代魔王の杖だが、まさか初代皇帝シド・ヴィエタに間違われるとは思っていなかった。あの金髪娘に何か吹き込まれたのだろうが、どこをどうすればそんな結論に行き着くのか問い詰めたい。



豊穣の月第四竜の日

 あのひとが死んでから10年10ヶ月。


 時間がない。早々に釣り上げなければ。

 魔力増減症で倒れたふりをして、半日寝ていた。

 もっとも魔力増減症なのは事実だが。

 ロッドの具現化や村中にかけてある魔術をいったん止めれば、体感的にあと三日くらいはもつはずだ。

 今ごろ、エイトもロゼも、魔女の家で栄養剤を必死になって作っているだろう。

 騙して悪いが、これで二人は安全だ。

 準備は整った。今から村の索敵結界や家の防御結界を全て消去しよう。

 何も知らないエイトの後ろでほくそ笑んでいる黒幕をまな板に引きずり出してやる。



枯れ葉の月第二炎の日

 事件は無事解決。しかしラインツにはこってり絞られた。

 魔力も、一度杖を持たせて限界まで使わせれば、それ以降は吸収されなくなるということが分かった。

 エイトに手をかけずにすんで正直ほっとしている。

 にしても、奴はいつまでこの世界にいる気なのだろう。

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