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プロローグ 魔術店初日

 台所の隅からポロロンと木琴のような音がした。

 瑛人えいとはきょろきょろと辺りを見回し、馬鹿でかい石窯の横にあるこれまた大きな柱時計を見つけた。

 どうやら、これはチャイムらしい。


 そういえば向こうの世界でもそろそろ高校のチャイムが鳴り、始業時間が始まる頃だ。

 出席が取られ、クラスメイト達は瑛人がいないことに気付くだろう。

 しかしあれは時計、といってもいいのだろうか。

 複数の針や太陽の飾り、星座盤が複雑に組合わさっていて、一体何時なのかさっぱりわからない。

 しかしその音を聞いて、他の住人はにわかに慌てだした。


「大変、もう朝の配達の時間だわ!」


 今まで包丁で草の根を切っていた同じ歳くらいの赤毛の少女が、作業を止め、忙しそうにバスケットに小さなガラス瓶を入れていく。


「私、配達に行ってくるから! ロッド、おいで!」

「ラジャー!」


 元気よく返事をした極彩色のインコが少女の肩へばさっと舞い降りた。


「じゃあ、後はよろしくね!」


 そう言うと、彼女はインコを乗せたまま、台所の裏口から急ぎ足で出て行く。

 瑛人は途方にくれて立ち尽くした。何をすればいいのか、皆目わからない。

 何しろ魔術店のバイトは一日目なのである。

 とりあえず、目の前にいる店長に聞いてみた。


「俺、次は何すりゃいいの?」


 店長、といえば聞こえはいいが、どう見ても中学生くらいの少年だ。

 少女が切っていた根っこを集めて金属の鍋に入れながら、店長は振り向きもせず答えた。


「表の看板を裏返してくれ。そろそろ魔術店も開店だ」


 瑛人は台所の裏口から外に出て、小さな家をぐるっと半周した。

 店の表玄関にかかっている金属で出来た赤色の看板は、瑛人にはさっぱり分からないくさび形の文字が金色で書かれている。

 彼は、鎖の着いたその看板を外し、裏返してかけ直した。

 裏側は緑色の地でこちらにも金文字が書かれていたが、もちろん読めない。多分、開店中とでも書いてあるのだろう。

 ここが、外国であればまだいい。よりにもよって異世界である。

 瑛人は将来に暗澹たる気持ちを抱え、店の玄関から踏み行った。ドアベルが呑気にチリンと鳴った。


 なぜ、こんなことになったのか、瑛人にもよくわからない。

 成り行きとしか言いようがない。

 理由なら瑛人が教えてほしいぐらいだ。

 この非日常が始まったのは、昨日からである。

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