この世界ができるまで
暗闇の中にいくつもの光があった。広大な宇宙で星の持つ魔力が輝き暗闇を照らしていた。魔力は世界によって与えられた創造の力である。望むままに、願うままに、思うままに、星々は輝く。
とある星には水があり、土があり、空気があった。星は自身を守る兵を造る為に魔力を放出する。星が核に内包する膨大な魔力は地中から漏れだし地上の全てを覆いつくした。そして魔力を元に生物が生まれた。その生物は増殖し、融合し、本能のままにひたすら成長する事で環境へと素早く適応していった。進化の過程で多種多様な姿へと変化していく。
やがて半身を大地に埋め硬い表皮を持ちそこに佇むもの、水の流れをものともせず水中を優雅に泳ぐもの、自由に駆動する四肢を持ち大地を徘徊するものなどたくさんの生物が生まれた。それらの生命はなにものにも脅かされる事なく拡大の一途をたどっていた。
しかしある日を境にその道は閉ざされた。星からの魔力が途絶えたのである。生命力の源である魔力が絶えれば成長する事ができなくなってしまう。やがて地上から魔力が無くなり生きる意味を見失った生物は静かに動きを止めた。ただ、まだ動き続ける生物が一体だけいた。成長する事を諦めていないその生物は他の生物と比べて小柄であった。それは巨大化するための魔力を取り込めなかったわけでは無く別の進化を選んだからである。
その生物は長い前足で上体を支えて歩き手と指を器用に使って動かない生物を観察した。果てしなく永い時間をかけ思考する。特徴的な大きな頭を使って。
やがて一つの答にたどり着いた。それはこの星において今まで行われる事のなかった行為であった。魔力の略奪。他生物を喰らい自身の成長にあてる。かつての融合とは少し違う。なぜなら、この星の生物は既にこれ以上の成長は不可能だと諦める事ができ、それでも存在しようと生き続ける意思を持っていたのだから。
頭の大きな生物は観察し終えた生物の背中へ乗りその頭部に掌を押し付けた。それが捕食の器官を持たずして他の生物を取り込むために考えだした方法だった。永い時間をかけ掌と頭が癒着する。永い時間をかけ足が背と繋がる。永い時間をかけ手が頭と交わる。永い時間をかけ細胞が細胞と融け合う。こうして二体は一体に成った。成功した。成長した。正解だった。あとは繰り返すだけだ。全ての生物を取り込みこの星で唯一の存在になる。
そこからは速かった。捕食するための器官を構築し効率的に取り込んでいく。他の生物がこの方法を真似しようとし始めたが、そもそも捕食器官を持たない状態からの進化ができずにいた。その間もひたすらに吸収し巨大化する生物に対抗できるものなどあるはずもなく遂に最後の生物を取り込み唯一へとなった。
唯一の生物は空に向け咆哮した。それは歓喜の叫び。大地が裂け、空気が割れる。それは勝利の叫び。二本の太い腕を肥大した頭の横に添え大きく反り返る。それは宣戦布告の叫び。上体を戻す勢いのまま、両の腕と、頭を、地面へ叩きつけた。あまりの衝撃に大地が捲れ上がり宙を舞う。立つべき足場を失った生物は真っ逆さまに落ちて行く。視界を覆う砂塵を払いのけ、行く手を阻む岩石を打ち砕き、その先で強く輝く光に向け手を伸ばした。星の核、魔力の塊へ。
星の上にいくつもの生命があった。広大な地上で生命の持つ力は輝き星を彩っていた。それは星とある生物が溢した希望である。望むままに、願うままに、思うままに、命は輝く。