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転生したら魔王にお持ち帰りされたとか

「───おぉ! なんとも可愛らしいわっぱじゃのう!」


「……………」


「よ〜し、お主はこのわしが引き取ろうではないか!」


「……………」


「な〜に、心配せずとも良い。とって食う訳でも、無理矢理働かせたりする訳でもない」


「……………」


「さて、では行こうかのう───我が城へ!」



 見た目は17歳位だろうか、黒髪の綺麗な少女だ。褐色の肌には禍々しい紋様が走り、いたずら気に細められた瞳は、金色こんじきに輝く。

 この少女こそ、この世界を支配すべく猛威を振るっている、現魔王アリアノールだ。


 そして、どうしてこうなった?


「おぉ〜よく似合っとるぞ、ナナ」


「……………」


「まさか、セクシー系まで着こなすとはな」


「………………………あの」


「なんじゃ?」


「ボク、男」


「それで?」


「なんで、女物………」


「そりゃあ、可愛いからに決まっておろう」


「理由、なって、ない!」



 記憶を持ったまま転生───しかも異世界に生まれてきて、約15年。飢餓と奴隷生活のせいで、女の子の様に華奢な身体付き。そして中和的な顔つきに、伸び放題の金髪。


 神を恨んだ。前世では、ごく普通の生活だった。数年に一回、近くに旅行に行けるような、ごく一般的な家庭。そんな中、いつも通りの下校途中、車に跳ねられ、あえなく死亡。それもボールを追いかけて道に飛び出した子供を庇って轢かれたのだ。


 正直言って、ちょっとは期待したよ。アニメや漫画みたいに、色々な特典を手に入れて、異世界でチートな力を振るって生きていけるんじゃないかと。

 もしくはそこまで行かなくても、そこそこ幸せに暮らせるんじゃないかと。


 しかし現実は地獄だった。



 生まれた家は農家。そこではまるでおとぎ話の様に、意地悪な継母がいて、常に苛められた。

 ろくな食事も、服も、睡眠も、そして愛も注がれず、挙句の果てには奴隷商に売られる始末。




 そして────牢屋の中で死んだ様な眼をしていたボクは、魔王に拾われた。もとい拉致られた。




「お主、名はなんと言う?」



 疲れきって、牢屋のなかで目をつぶっていたボクは、騒がしさに瞼を開き、その光景に絶句した。

 あの恐ろしい鞭を振るう奴隷商人達が、ただの肉塊となっていたのだ。



 死神が現れたのかと、一瞬思った。悪い事をする商人達に天罰を与えに、そして穢らわしい奴隷ボク達を処分する為に、神の使いが来たのかと、本気で思ったものだ。


 しかし、悠然と微笑みながら歩いて来たのは、可愛らしい少女だった。


 横には赤い髪のメイドを連れ、襲い来る用心棒達を、まるで虫を払うように肉塊に変えて行く、黒の少女。




「────あぁ、先に名乗れと。良いじゃろう。我が名は魔王アリアノール、いずれこの世界を手に入れる者よ!」



 そして再び名前を聞いてくる少女。

 掠れかすれの声で、「名前はない」と答えようとしたもだが、上手く言えず………


「そうか、ナナと言うのか………どれ、もっと顔をよく見せてみい」


 あ、アゴクイされた………




 そしてセリフは、冒頭に戻る。







 後で聞いたことだが、天下の魔王様が、なぜ人間の奴隷を漁っていたかというと、「我が仲間には、癒し要素が足りん! 萌要素じゃ!」との事で、そんな下らない理由ではあるものも、地獄から救われたのであった。




 が、それから数ヶ月。地獄から抜け出せたと言っても、天国に行けた訳ではないようだ。


「ナ〜ナ〜、今日はこの服を着てみい」


「……………」



 ここは素晴らしい。労働を強要してこないし、部屋も食事も睡眠も、そして、たぶん愛も十分に与えてくれている。


 しかし…………


「おお! やっぱり似合っとるのう。ワシの見立てに狂いはなかったのう!」


「………………」


 ことある事に女物の服を着せてくるのは何なのだろう。


「パーカーとミニスカ、そして敢えての裸足!細くて長くて白い肌、綺麗じゃの〜」


「……………魔王様も、綺麗」


 ボクを褒める彼女のほうこそ、褐色肌、なかなか綺麗だ。ただ、なぜ前世にあった衣服がこの世界にあるのだろうか?


「そうかそうか、それは嬉しいのう……ただ」


 チッチッチと、キザったく指をふる。


「その“魔王様”とやらをやめんかい。アリアと呼べと言ったであろう?」


「………………………」



 たしかに魔王様は、ボクを助けてくれた。あの灰色と黒を延々と混ぜ続けたような暮らしから、連れ出してくれたのだ。しかし、魔王は魔王。人類の敵だ。

 助けてくれたし、一応“様”はつけるけど……名前呼びは違う。敵なのに仲良しげに名前を呼ぶのは、ダメだと思う。そこに理由なんてない。


 ────なんて事を言ってみるけど、やっぱり嘘っぱちだ。


 敵……なんてものは、ボクからしたら全てのものが敵だ。みんな勘違いしてるんだ。

 人は、生き物は、いつ敵になるか分からないなんて言うけれど、本当はもともと敵だったんだ。たまたま利害が一致して一緒にいただけなのに、仲が良いと、仲間だと勘違いする。


 この世界に生まれて、父親だけが、味方だった。おっかない継母と、厳しい世間の目という共通の敵がいたボク達は、仲間だったんだ。

 結局、ボクを置いていけば継母から逃げられる事になった父親に見捨てられたけど。


 次の仲間は、奴隷達。みんな死んだような目をしてたけど、牢屋の中でモソモソと会話をしていると、根はいい人達ばっかりだ。心が荒んでる人もいたけど、やっぱり連帯感出てきて、彼等は仲間だった。

 結局、スタジアムで奴隷同士の戦い、そこで手加減してくれる人は誰もいなかったけど。



 ほんとは……そう、怖いんだ。再び裏切られるのが、彼らの優しげな瞳に、赤いひかりが宿るのをみるのが。


 だから、ボクは道具だ。みんな敵だ。そう思っていれば、耐えられる。



「────なんじゃ、つまらんヤツじゃのう」



 そうだ。ボクに何も求めないでくれ。失望が、怖いんだ。失望されるのも、そんな彼らに失望してしまうのも……。



「しょうがない、ワシも仕事があるしの、今日はこの辺で……」



 名残惜しげに部屋を出て行く魔王様。どうにか今日の危機は去ったようだ。



「はぁ……」



 ボクは冷えきった息を零し、天井を見上げた。

 

 端から端まで十歩()ある広大な部屋の中、その隅で膝を抱え、体重を壁に預ける。


 広い空間はどうにも落ち着かない。あぁ、あの狭い牢屋が恋しいよ。


 ついっと視線だけで壁に目をやると、そこには申し訳程度の装飾。反対側を見れば、ボクのちっぽけな身体に不釣り合いの大きなベッド。


 一応ここはボクの部屋、らしい。


 どうして“らしい”のかというと毎晩毎晩、魔王様が一緒に眠りに来るからだ。


 ボクがここに来た当初、小さな小さな部屋を希望した。しかしこの城の中で1番狭い部屋と言えば、トイレくらいなもので、次に小さかったのはこの部屋。

 なんでも物置だったらしい。



 魔王様が帰って来るまで、数時間。ボクは自由だ。

 生きていること自体自由とは言えない、なんて持論は置いておいて、別にこの部屋に監禁されている訳じゃないし、なんと城から逃げ出しても構わないとまで言われている。


 ……だけど、無理だ。こんな世の中、ボクみたいな子供が1歩でも外を出歩けば、死ぬか奴隷商人に捕まって終わりだ。


 死んでしまい。けど、いざ刃物を首筋に近付けると、体が勝手に震え出して、動けなくなる……死ぬ勇気もないんだ。


 まあ、奴隷時代から刃物なんて触らせてもらえなかったんだけど。



「はあ……」


 今は、夜だ。あんまり遅い時間じゃないけど、天井近くの小窓から月明かりが差し込んでる。


 ──そういえば、魔王様の目も、月みたいな金色だ。

 なんだか魔王様にずっと見守られてるような気分だよ。



 ボクは不思議な安心感の中、そっと目を閉じた。

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