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アラベスクに問え!  作者: 一瀬詞貴
一、打ち破る赤の章
7/26

自称天才染め士、アルバート・グレイの出立(7)

「そろそろ家に入りましょうか」

 姉の言葉に、アルバートの母は頷いた。

 思い出した寒さにブルリと震えると、姉が自分の羽織っていた上着を譲ってくれる。

「……私ね、あなたが大切なのよ」

 踵を返した時、隣を歩く姉がクスンと鼻を鳴らした。

「ええ、知ってるわ」

 姉は目線を落としたまま、スカートの裾をぎゅっと握りしめ、続ける。

「あの子だって大切な甥っ子なんだもの。だから苦労して欲しくなくて」

「あら。でも、お姉ちゃんは自分を貫いているじゃないの」

 妹が噴き出すと、姉は目をぱちくりさせた。

 それから肩を竦めて苦笑を零す。

「そうね。そうだったわね」

 肩を寄せて歩き出した二人は、どちらともなく村の外を振り返った。

 もう旅立った少年の背は見えない。

「お姉ちゃん。私ね」

 アルバートの母は、ぼんやりと闇を見つめながら口を開いた。榛色の髪が風に遊ぶ。

「私ね、どこかで、あの子に後ろめたさを感じてたの。母一人、子一人。そのせいで、たくさん遠慮もさせたし、辛い思いを強いたから。それが」

 彼女は一度、足元に目を落としてから、再び顔を上げた。

 背筋を伸ばし、張りのある明るい瞳で前を真っ直ぐ見つめる。

「今は、心がとっても軽いの。あの子が頑張る。私も頑張る。やることは今までと同じなのに、どうしてかしら。全然違う。何故だか、とても嬉しくて。――――――嬉しくて」

 はきはきとした明るい声が、不意に上ずった。

 姉はそっとその華奢な肩を抱き寄せた。

 妹はその逞しい胸板にしがみつくと、肩を震わせた。

「…………静かに、なるわね」

 姉の呟きに、妹は無言で頷いた。




〔第一章 完〕

お読みくださり、ありがとうございます!

次回更新は、2月10日(火曜日)7時です!!

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