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アラベスクに問え!  作者: 一瀬詞貴
三、晴れた蒼の章
23/26

それぞれのアラベスク(7)

「……僕は」

 取り残されたヒューズは、じっとしていた。

 ややあってから、彼は両腕で自身を抱くと身体を丸めた。

 と、右手に触れた感触に、彼はそろそろと袖をまくった。

 そこには、アルバートが染め、自分で織った紐が結びつけられていた。

「僕は、どうして、あの時」

 ぼやいて、ヒューズは椅子の背もたれに寄り掛かると、そっとその紐に触れて目を閉じた。

(母さんは、頑張ってるわね、って言った)

 祖母も乳母も、執事もみんな、坊ちゃんは頑張り屋さんですね、と言った。

 ……結果については誰も何も言わなかった。

 責められないための「頑張り」。

「それは……何かを生み出すためじゃない。言い訳だ」

 兄のウィリアムは何も言わなかった。

 それが全て見透かされているように感じて、ヒューズは彼が苦手だった。

 そして、アルバートは……

「………………本当に、嫌な人だな」

 彼は他の誰とも違っていた。

 ハッキリと嫌なところを抉ってきた。

――――酷く、腹が立った。

 こんな自分など知りたくはなかった。

 胸がぐちぐちと湿った痛みを訴え始める。

 情けなくて、恥ずかしくて、それは消えたいくらいで……それでも。

 何故か、本当にほんの少しだけ……胸が温かかった。

「どうして、僕は、これを織ったんだろうね」

 腕に巻き付けた、アルバートとおそろいの勝利祈願を見つめながら、ヒューズは自身に問いかける。

「織りたくなんてない」

 織ることは嫌いだった。

 織る必要があったから織ってきたのだ。けれど。

「でも……これは、違うんだ」

 ヒューズは過去を味わうように、そっと紐をなでた。

「………………これは違うんだ」

お読みくださり、ありがとうございます。

次回は、4月7日(火曜日)7時予定です。

宜しくお願いします!

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