それぞれのアラベスク(7)
「……僕は」
取り残されたヒューズは、じっとしていた。
ややあってから、彼は両腕で自身を抱くと身体を丸めた。
と、右手に触れた感触に、彼はそろそろと袖をまくった。
そこには、アルバートが染め、自分で織った紐が結びつけられていた。
「僕は、どうして、あの時」
ぼやいて、ヒューズは椅子の背もたれに寄り掛かると、そっとその紐に触れて目を閉じた。
(母さんは、頑張ってるわね、って言った)
祖母も乳母も、執事もみんな、坊ちゃんは頑張り屋さんですね、と言った。
……結果については誰も何も言わなかった。
責められないための「頑張り」。
「それは……何かを生み出すためじゃない。言い訳だ」
兄のウィリアムは何も言わなかった。
それが全て見透かされているように感じて、ヒューズは彼が苦手だった。
そして、アルバートは……
「………………本当に、嫌な人だな」
彼は他の誰とも違っていた。
ハッキリと嫌なところを抉ってきた。
――――酷く、腹が立った。
こんな自分など知りたくはなかった。
胸がぐちぐちと湿った痛みを訴え始める。
情けなくて、恥ずかしくて、それは消えたいくらいで……それでも。
何故か、本当にほんの少しだけ……胸が温かかった。
「どうして、僕は、これを織ったんだろうね」
腕に巻き付けた、アルバートとおそろいの勝利祈願を見つめながら、ヒューズは自身に問いかける。
「織りたくなんてない」
織ることは嫌いだった。
織る必要があったから織ってきたのだ。けれど。
「でも……これは、違うんだ」
ヒューズは過去を味わうように、そっと紐をなでた。
「………………これは違うんだ」
お読みくださり、ありがとうございます。
次回は、4月7日(火曜日)7時予定です。
宜しくお願いします!