テスト×テスト×テスト(9)
「十四、十四……っと。此処か」
三時間ほど彷徨い歩き、やっとのことで寮に着いたアルバートは、早速、新しく割り振られた部屋に向かった。一階の、中庭に面した一室だった。
ゼロの嫌がらせは、珍しくアルバートにとって良い方に働いた。
あのままでは、身分の壁でペアを得るのに随分と苦労したに違いない。
アルバートは、〈一四〉と書かれた扉の前に立つと、深呼吸をした。
(どんな奴だろう)
本当は、ペアだと言う事を考えれば、棄権するべきなのかもしれなかった。自分は結局、木の精霊や、土の精霊から色を貰うことができなかったのだから。
そして、再び偶然で色を手に入れられるとも限らない。
(でも――――)
諦めたくなかった。
他人に迷惑をかけるかもしれなかったが、どうしても、この偶然を途中で終わらせたくなかった。
(俺はやってやる。っつか、やるしか、ねぇんだ。此処まで来ちまったんだから)
まだ時間はある、とアルバートは自分に言い聞かせると、目前の扉を睨め付けた。
(なんとかしてみせる。てか、なんとかする方法を探すっきゃねーし)
玄関を入ればすぐ左に狭い台所があった。そのまま奥に進めば、仕切りもない部屋続きに寝室が広がっていた。
勇気を出して、踏み込む。
部屋の左右に設置された二つのベットの片方には、先客がいた。
「うっす。染め士のアルバート・グレイだ。宜し――――」
アルバートは、緊張の面持ちを拭うと、努めて明るい声を出し……荷を解いていた自分のペアを見て、息を飲んだ。
「ヒューズ」
「アルさん……」
ヒューズは固い声でアルバートの名を口にすると、目線を落とし、鼻からぬけるような、侮蔑の笑いを漏らした。
「はっ、最低だな。最後の最後で、あなたに当たっちゃうなんて」
冷たい声に、アルバートの肩が揺れた。唇を引き結び俯く。
ややあってから、その歯の間から苛立ちが転び出た。
「…………ちょっと待てよ」
アルバートは乱暴にリュックを床に叩きつけた。
「最低ってどういうことだよ。おい!」
足音高く、ずかずかとヒューズに歩み寄る。
「確かに俺は筆記も実技もボロボロだったよ。身分も、才能も何もかんもお前とは釣り合わねぇ。けど、その言い方はないだろ!?」
ヒューズはびっくりしてベッド前で仁王立ちするアルバートを見た。
アルバートは顔に熱が集まるのを感じた。
呼吸が震えて、胸が苦しかった。
酷く傷ついていた。
「それとも何か? 俺がペアじゃ、合格目指す気にもならねぇか? だったらさっさと変えて貰ってくれ! お兄様にお願いしてな!!」
「ちが、違いますよ」
「何が違うって言うんだよ!」
ベットから腰を上げたヒューズにアルバートが問い詰める。
ヒューズは、肩で息をする友人を哀しげに見つめてから、悄然と項垂れた。
「才能が釣り合わないのは、僕の方なんです」
「あ?」
「ごめんなさい」
眉根を寄せたアルバートに、ヒューズは礼儀正しく頭を下げた。
「僕、織れないんです」
理解ができずにきょとんとするアルバートに、震える声が続ける。
「僕は、アラベスクに必要な〈精霊の加護〉を織り込む事ができない。……僕には、素質が、ないんです」
〔第二章 完〕
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次回更新は、3月13日(金曜日)7時です!