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今回、残酷描写があります。苦手な方はお避け下さい。
「風の刃!」
私の力ある言葉に反応し、前30メートルほどの草が刈り取られる。その中を荷馬車はすごい勢いで突っ走っていく。森の中だから道なんてない。馬がちゃんとした速度で進むためには道を作る必要がある。だから私が一番前に乗ったのだ。
「いやーすごいですね。魔術って!」
「それはどうもです。風の刃!」
範囲指定を前方向にし、幅を馬車が通れるぎりぎりに設定することで一回の言葉できる射程距離を伸ばしている。そうしないと絶えず言葉を発していなければいけない。この術自体は難易度も殺傷能力も低いが、効果射程、威力を微調整できるかどうかが魔術師の腕の見せ所なのだ。
「でも私だけじゃ、この依頼、できなかったと思います」
「え?なんでです?」
彼は本当に商人初心者だなー。でも、それでもお客様ですから。表情は変えずに答える。
「私が道を作ることに専念していたら、魔物に襲われたときに対処が遅れます。魔物に対処するための人員がいることでこれは成り立つ方法だと思いますから。風の刃!」
「なるほどー」
呑気な人だ。いや、この人がこれからパイス商会を率いていくのか…本当に大丈夫か、パイス商会。
私の不審そうな視線に対して、アロッドさんは苦笑する。
「今大丈夫かなって思われたでしょ?確かに、僕は今回後手に回っていますよ。でも、これを乗り切れば自分が成長できる気がするんです!」
なんて前向きな人なんだ。その精神力は魔術師に向いているかもしれない。魔力・集中力・精神力は、魔術師が最も必要とする技能だから。
と、そのときセルアの声が聞こえた。
「右方向から魔物が接近中!1台目が直撃経路。速度は現状を維持!」
「了解!」
私はセルアに答え、アロッドさんに伝える。
「アロッドさん、落ち着いて聞いてください。予定通り、魔物が荷車に接近してきます。おそらくこの荷台に当たるでしょう。衝撃が来ると思いますが、そのまま馬を走らせてください。道を広く作っておきます。 風の刃!風の刃!」
アロッドさんは青ざめた表情で、わかりました。と言って手綱をぎゅっと握る。私は荷台の端を強く握りしめて構える。
セルアの言葉が聞こえた後、茶色い毛むくじゃらの生き物がこちらに猛然と突進してくるのを確認した。
「来ます!」
毛むくじゃらの生き物はブラッディベア。熊のような魔獣だ。大きさは熊の2倍ほどもある。
ベアがその巨体を勢いのままぶつけてきた!普通なら人を運ぶ大きな荷馬車でも横倒しにするような強烈なアタック。
しかし、ドンッという強い衝撃が来たものの、軽い横揺れがあっただけで、荷台は倒れずに走り続ける。
ぶつかる瞬間に水色の光が荷台から放たれ、球状に囲み、荷台を守ったからだ。
はじかれたベアをしり目に馬車が走る。
ベアは体勢を立て直し、再度目の前に来た3台目にすぐにその鋭利な爪を振り下ろそうとした。
「甘い」
一瞬の斬撃だった。
双剣が閃いたときには、ベアは首を横なぎに切られ、吹っ飛んでいた。
「すごい…!」
アロッドさんのつぶやきに、私は深く同意する。
セリアの剣の腕は本物だ。これは並大抵の腕ではない。ベアは巨体だし、毛に覆われているから、容易に刃が通らないはずなのに。きっと骨の隙間に一瞬で刃を埋めて薙いだのだろう。これは想像以上だった。
お読みいただき、ありがとうございました。