1-6
なんの収穫もなく夕方になり、泊まっている宿に帰ろうとしたところだった。
「あの」
「へ?」
話しかけてきたのは、私よりも年が少し上くらいの気の弱そうな青年。
「あの、あなた魔術師なんですか?」
私が相手を警戒して言いよどんでいると、彼は慌てたように付け加える。
「僕、昼に見ていたんです!お昼、ハムハム亭でお昼召し上がっていましたよね?その時に、この村のチンピラに絡まれて見事に撃退されるところ…」
「あぁ、そんなこともあったっけ」
魔族の襲撃ですっかり忘れていた。そういえばあのチンピラたち、どうなったんだろうか。まだ解放されていなかったら、きっと今頃変な体勢のまま、筋肉痛になっているだろう。
「そのようなものです。あなたは?」
「僕は、アロッドと言います。パイス商会の者なんですけど」
「パイス商会?それなりに大きい商会じゃないですか。なんでこのような辺鄙なところに?」
「それがですね、僕、父の跡を継ぐ試験として、隣町・イノラに荷物を届けることを言いつかりまして。本当は2つ前の村で中央街道に行くつもりだったんですけど、そこで護衛の方が全て他の商会に取られてしまいまして。」
「パイス商会という名を出せば冒険者くらいついたでしょう?」
「親の七光りは嫌なんです!今回は僕の力で無事に荷物を運びたかったんです!」
たとえ護衛を雇うのに商会の名を使ったとしても七光りとは言わないと思うし、むしろ商会の名はそこに価値があるんじゃないかと思うんだけど、それに突っ込んでいると話が進まないのでそれで?と、話を促す。
「中央街道からはイノラ町まで中継地点がないですよね。そんな長い道のりを護衛なく通るのは危険だと思い、この村まで来たんです。でも…困ったことに、荷の届け期限が3日後なんです!!」
「…ここから急いで町に向かっても4日はかかりますよね…」
「はい…僕、しあさってまでに運べなければ試験失敗で家を継げないんです!それで、どうしても届けたくて!」
聞けば聞くほど残念な人だなぁ。むしろ、失敗して商会継げなくなる方が今後の商会のためなんじゃないかな。
内心はそう思うが、私はここで仕事が欲しい。
「それで、護衛が欲しいと?」
「はい。このまま森を突っ切ろうと思うんです。」
「森を?」
「ええ。ここは魔物の多い森と聞きました。だから街道は森を迂回する形で引いてあって、そのせいで時間がかかるという話も。それなら、森の中を突っ切れば時間は節約できる。でも、それには優秀な護衛が必要でして。お昼の騒動を見ていて、あなたしかいないと思ったんです!」
彼が身を乗り出し、必死の形相で私の手を握ろうとするので、体を軽く捻ってかわして尋ねる。
「…報酬は?」
「5アイン出します。2日以内に着くことが前提です。荷物の損傷につき、減額します。やり方はどのような仕様でも結構です。」
5銀《アイン》。悪くない。コストパフォーマンスはいいとは言えないが、背に腹を代えられない状態でもある。それにどうせイノラ町に行くのだ。
「…わかりました。荷台の数を教えてください。それから、私には今連れがいます。彼が了承し、かつ彼も一緒に依頼を受けられるというのならお受けします。」
私の言葉に彼はぱぁっと顔を明るくして、「よろしくお願いします!」と頭を下げた。