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できたー
あのあと、私とセルアは村に戻り、宿を取った。宿は村に2つしかないから、いい方に泊まる。贅沢というなかれ。こういう治安が良いとは言えないところで安いところに泊まると、追剥や強盗にあったりする。そんな者どもに負ける気はさらさらないけど、面倒事にこれ以上巻き込まれるのは嫌だ。
しかし、部屋に着くと彼はすぐに文句を言った。
「なぁ」
「何?」
「なんで一部屋しかとってないんだよ?」
「え?経費節減?」
「…っ。俺の分は俺が出すっ」
「さっき私が部屋取ったときに、後続の客入ってたから、今この宿にそれ以上の空きないと思うよ?」
私の言葉にドアに行きかけた彼の動きが止まり、こちらを振り向く。顔を少し朱に染めているのでびっくりした。いやーこれまでずっと、あきれた表情と無表情しか見ていなかったからね。照れた美少年ってかわいいな。彼はそのままの表情で問う。
「お前、年いくつだ!!!」
「え?もうすぐ17?」
「同い年かよ!ちょっとはさぁ、気にするとかないの?」
「何を?だって2段ベッドだよ?ちゃんとのびのび寝られるよ?」
きょとん、として聞き返したら、彼は脱力して、もういい。とぬかす。
何を言っているんだか。それよりも、私はやらなきゃいけないことがある。
「ってお前何してるんだよ!!」
「え、何と言われましても。さっき襲われたときに切られたとこの治療」
さっき鎌で脇腹と腕を切られた。幸いかすり傷。あのような強敵相手だったら僥倖だったと言える。私は上のシャツをめくり、脇腹に傷用の軟膏を塗っているだけだ。
「あ~~~~~~もういいっ!」
彼はぎょっとした後、すぐにさっきよりも顔を赤らめてバタン、と乱暴に出て行った。なんて気の短いやつ。繊細そうな印象を受けたのに。
私は自分の治療を終えると、宿を出た。次の町に行くまでにお仕事を見つけないと、路銀が悲しいことになっているからだ。セルアへの弁済をしなければならないことを除いたとしても、自分の武器がなくなっている以上、次の町で補充しなければならない。そのお金も考えると、この村で次の町までの護衛の仕事とかを受けないとならない。
「とは言ってもなぁ。」
この小さい村は、隣の大きな町に行くまでの最後の中継地点だから、冒険者が意外と多いのだ。そうすると必然的に仕事は少なくなる。大きな商隊はこの村を通らずにもう2つ手前のちょっと大きめの村から出る街道で直接町に向かうだろう。そうすると、ここに来るのは森でハンターをしている冒険者や、小さい商人くらい。しかもこの周辺の森は結構大きな魔物が出るもんだから、商人は怖がって使いたがらないから余計少ない。
そんなところで、ほいほい仕事が来ると思ったら大間違いだ。
村を回ってみたけれど、これという仕事は手に入らなかった。
「前途多難だなぁ…」
私はむなしく帰路についた。
セルア君ごめん…