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…ふう。命は奪われなかった。魔石も無事だ。
「おい」
低ぅい、地を這うような声音。
「…はい?」
「お前、さっき、食堂で同席だったやつだろう?」
声も美声なんですねーまだ青年まで至らないくらいだろうに、成長したら怖いねー。
現実逃避している私に対して、少年は双剣をシャキンッという音をたててしまい、私に近寄る。いや、彼とは話してみたいと思ったけど、そんなに、近づかなくて、いいです。うん。
彼は私の真ん前まで来ると、低い声で私に告げる。
「お前、俺から短剣奪った上に壊したよな」
「…そうですね」
「それから、俺の右剣、今のでちょっと欠けたんだけど。鎌まともに受けたし。左剣は魔力全部使った。今の、魔族だろ」
「えっと、私助けを求めていなかったっていうか」
「じゃあ死んでもよかったんだな?」
「ごめんなさい」
即座に誤る。相手の言うことが道理だ。
「えっと、その、本当にごめん。命を助けてくれてありがとう」
私はフードを外し(相手にお礼を言う時なんだから、外すのがマナーでしょ!)相手に言葉を挟ませずに続ける。
「いや、なんで魔族に襲われているのか、とか言えないというか、わからないというかなんだけど…その、短刀とか双剣の魔力分とかは弁償させてもらいますっ」
「5オンス、2アイン、3オンス」
「は?」
いや、お金の単位くらいわかる。
1オンスとは1金のこと、1アインとは1銀のこと。ちなみに、貨幣としては、他に1イ・オンス=1白金、1ベルタ=1銅、銀と銅の間に半銀があり、銅の下に半銅、半銅の下に劣銅がある。
単位換算をすると、
0.1白金=1金=10銀=20半銀=100銅=200半銅=1000劣銅である。白金なんて、一生かかって見ない人の方がほとんどだ。
で、私が驚愕したのは、その値段である。
「ええええええっと。全部で8金2銀?」
訊くと美少年は不機嫌そうな顔で頷く。いやいやいや、そんなに手持ちありません。そんな大金持っているわけない。
「……明細は?」
「短剣が5オンス、双剣の研ぎ代が2アイン、双剣の魔力を籠めるのに3オンス」
そうだった、魔力のこめられた武器のことを力ある武器というが、これはお高いんだった!!ちなみに、普通の武器に魔力を籠めることもできるが、これも専門の魔術を用いないとできず、この技術の習得をしている人に籠めてもらう必要があるからお高い。
脂汗を浮かべる私に対し、美少年は胡乱《うろん》な目を向ける。
「いや、返す!必ず返すから!物を借りたら必ず返す、これモットーだから!」
「…借りるっていうか、奪い取るって感じだったけどな…」
「…っ」
「分かっていると思うけど、魔剣って、お金に代えられないからな。能力、使い心地、いろいろ総合考慮して決めるんだからな?」
「っ!!!わかってるわよ!私だって武器使うから!」
ああああもう本当に失敗したのは間違いない。魔力籠めの方は、大きめの町に行けば何とかなるかもしれないけど、武器については私にはどうすることもできない。しばらく思案して私はいいことを思いついた。
「…今、私には持ち合わせがない。だから、いい武器見つけたらその時に私が代わりに払うってことにしましょうよ!」
美少年は半眼でこちらを眺めていたが(いや、これも似合うんだけどそれを鑑賞する余裕はありません)、口を開く。
「それは、しばらく行動を共にしろ、ということか?」
「…どこか行く予定がある?私、自分の行く宛があるし、そんなに余裕もって旅しているわけじゃないから、あまり寄り道はできないんだけど」
「いや、目的地があるわけじゃない。とりあえず王都に行くつもりだった」
「それなら同じ方向よ!ね、お願い!そういうのでお願いします!」
私の決死の頼み込みに、彼はため息をついた。そして諦めたように「分かった」と言った。
「で、あなた名前はなんていうの?」
私の問いかけに、彼はまた面倒くさそうな表情をする。
「いやだって、これからしばらく一緒に旅するのに名前知らなかったら呼べないじゃない?」
「セルア」
「私はシエラ。これからよろしくね、セルア!」
私は彼ににっこりほほ笑んだ。
美少年セルア君登場ですー名前出たー
ちなみに、お金の単位ですが、日本円にすると、1金10万、1銀1万、1銅1000円のつもりです。
夜、もう1話、いける、かな…調子に乗るなとはたかれそう。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました!